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2023.07.16

予想外の大雨、警戒区域への避難指示に課題 佐賀の土砂災害1週間

 佐賀県唐津市浜玉町平原の大規模な土砂崩れで3人が死亡した土砂災害から17日で1週間を迎える。山間部の現場周辺には1時間雨量80ミリ超の大雨が局地的に2時間続き、唐津市や県の担当者は「予想外の大雨だった」と振り返る。土砂災害警戒区域への避難指示のあり方も課題として残った。

 「降ったとしても一時的なもので災害を起こすものにならない」(同市担当者)として、同市は9日正午に警戒レベル3にあたる高齢者等避難を解除していた。

 しかし、10日になると雨脚は強まる。市役所がある唐津市中心部の雨量は午前0時からの1時間雨量が52・5ミリを記録。担当者は「午前0時ごろから雨が少し強まったので避難指示をどうするか検討を始めた」と明かす。ただ、同1時からの1時間雨量は4ミリに減り、小康状態に入った。

 一方、同市浜玉町平原周辺の今坂地区も午前3時からの1時間雨量は19ミリにとどまっていた。ところが同4時からは1時間雨量88ミリ、同5時からは同81ミリと2時間続けて1時間雨量が80ミリを超えた。今坂地区からわずか10キロにある唐津市中心部の2時間の雨量は計31ミリと、現場と大きな違いがあった。

 そして10日午前6時14分、「今坂公民館近くの山が崩れている」と唐津市消防本部に119番があった。今坂地区の大規模な土砂崩れは通報直前に始まったとみられる。

 唐津市役所には10日未明、5人前後の職員が当直に入って警戒していた。同市危機管理防災課によると、119番があった14分前の同6時に警戒レベル4にあたる避難指示を出していた。同課担当者は「大雨の暗い中を市民が出歩くのは危険だとの判断で少し明るくなる6時に発令した」と説明する。

 担当者は「今から振り返れば事前に避難指示を出しておけば良かったが」と話しながらも「10キロほどしか離れていない現場と市役所周辺で雨量が全然違った。情報を収集していたが、大雨を事前に予測するのは難しかった」と打ち明けた。

 被害があった現場周辺は2017年2月、県が土砂災害警戒区域に指定。18年には現場付近を流れる今坂川の上流部で土石流が発生したことから、20年に砂防ダムを完成させていた。今回は今坂川に流れ込む渓流沿いで土砂崩れが発生。県河川砂防課の藤田孝道副課長は2時間続いた80ミリ超の雨量について「どこで土石流が発生してもおかしくない状態だった」と振り返った。

 県内では平野部を中心に大雨となった19年8月と21年8月には、広範囲で内水氾濫が起きた。今回は「背振山系から鳥栖市に掛けての山間部で線状降水帯による豪雨が発生し、山間部での土石流や斜面崩壊などが起きたのが特徴」(落合裕二副知事)だ。

 11日に現場を視察した山口祥義知事は、今回の大雨では内水氾濫対策には一定の効果があったとの認識を示す一方、「土砂災害に対する避難のあり方も含めて土砂災害警戒区域にいる皆さんにどうメッセージを出していくか改めて考えていきたい」と述べた。

 一方で、これまでの大雨対策の一環として設置してきた砂防ダム周辺で土砂崩れは起きなかった。藤田副課長は「仮に今回の現場に砂防ダムがあったら被害を抑える効果があっただろう」と話す。ただ、砂防ダムの設置には5年以上かかり、藤田副課長は「ハード整備には時間を要する。まずはソフト対策を進める。土砂災害警戒区域への避難指示についても市町村に早めの指示を呼び掛けていく」と話した。【五十嵐隆浩】

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