ソーシャルアクションラボ

2023.07.20

夏の同伴外出は動物虐待? 理解薄い指摘に戸惑う盲導犬使用者

 「日中に犬を連れ歩くのは動物虐待だ」――。ここ数年、異常高温が続く夏にこんな指摘が盲導犬の育成団体に届くようになった。屋外で盲導犬を見かけた人が、犬の体調を気遣って意見を寄せたとみられる。一方、多くの盲導犬使用者は屋外にいる時間を最低限にしたり、なるべく日陰を通ったりと、予防策を取っている。仕事や通院など必要不可欠な外出はあり、育成団体は理解を呼びかけている。

靴が苦手な犬もいる

 2022年7月、兵庫盲導犬協会(神戸市)に「気温30度を超える中で、(犬用の)靴を履かせずに犬を連れ歩いている人がいる」との電話がかかってきた。時間や場所から、協会の盲導犬マーチ(雄、7歳)と視覚障害者、竹田武夫さん(77)=兵庫県西宮市=についての指摘とみられた。

 竹田さんは、進行性の病気のため50代後半で目がほとんど見えなくなった。65歳の時に盲導犬と暮らし始め、19年に2代目のマーチとペアになった。食料や日用品の買い物、通院、講演活動などで日中も行動を共にする。

 マーチは靴が苦手なので、夏は竹田さんが路面を手で触って温度を確かめる。よく利用するスーパーなどは日陰が多いルートを把握しており、マーチには冷感素材の服やクールマフラーを身につけさせて熱中症の予防をしている。

通りがかりに「散歩させてはだめ」

 協会への連絡だけではない。昨夏は通りがかりの女性から「こんな暑い時に犬を散歩させてはだめですよ」と声をかけられた。散歩ではなく、盲導犬は仕事中だと説明したが、後日「盲導犬に興味がある」と言われて連絡先を交換した通信アプリ「LINE(ライン)」に「犬が危険なのでタクシーを利用してください」「盲導犬は寄付で成り立っているので、暑い中連れている動画を撮られてSNSに投稿されたら非難される。注意してください」などのメッセージが送られてきた。

 竹田さんは「そもそも路面を触って耐えられないほど熱くなるような状態なら自分も出歩かない」と言う。「マーチには私の命を預けており、息づかいなどの健康状態は常に観察し、異変があればすぐに察知できる。私たちの関係が一見しただけではわからないのでしょう」と動物への配慮を欠いているかのような指摘に戸惑う。

 神戸市の「もみの木動物病院」の村田元(はじめ)院長によると、犬も人間と同じように熱中症になる。ただここ数年、熱中症が強く疑われる受診例はないという。「飼い主が十分な配慮をしているからではないか。そもそも、目が不自由な方が熱中症で倒れるような激しい活動をするとは考えにくい。犬も人間と同じように外出時に冷房のある場所で休憩をし、こまめに水分補給するといった対策で熱中症を防ぐことができる」と話す。

記録的猛暑の18年に通報急増

 国内最大の約250人の使用者がいる日本盲導犬協会(横浜市)。夏場の盲導犬使用に関する通報は、記録的な猛暑になった18年に急増し、それまで10件前後だったのが約50件に達した。19年も約50件あり、その後も毎年20~30件が寄せられている。駅からタクシー乗り場まで歩いたのを見とがめられて通報されたケースもあった。

 こうした声が相次ぐ状況について、広島市でしんきゅうマッサージ治療院を営み盲導犬と暮らす清水和行さん(62)は「盲導犬自体を動物虐待と考える人もいる。夏に異常な高温が続いているので、こうした声が増えても仕方がない」と受け止めている。自身はなるべく外出を控え、犬に靴を履かせるなどの対策をしている。「何を言われようとも、きちんと説明できるように、私たち使用者が対策を万全にして、犬の健康を守っているかが問われている」と話す。

育成団体「熱中症予防に配慮」

 協会は毎年夏前に、全使用者に高温時は不要不急の外出を避けるように注意を促す文書を送り、「冷房の利いた場所でこまめに休む」「冷たい水を持ち歩く」といった対策を伝えている。夏季は盲導犬の訓練を早朝や夜間に切り替え、犬を伴う屋外の普及啓発イベントも控えている。

 こうした取り組みを知ってもらうため、19年からホームページに「盲導犬の熱中症予防」のページを開設。靴やクールマフラーなどの暑さ対策グッズがすべての盲導犬に有効ではなく、逆にストレスになってしまうケース▽季節を問わず、通勤、買い物など生活に不可欠な外出――があることなどを紹介。日中歩いているのを見かけたとしても、「買い物で店員のサポートが必要なため、夕方や夜の混雑時は頼めない」「距離が近くタクシー利用ができない」など、相応の理由があるかもしれないことを伝えている。

 協会は「使用者は犬の健康を考え、十分な対策を取ったうえで外出しており、必要な活動が制限されることがないよう理解と協力をお願いしたい」としている。【山本真也】

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