2023.08.02
「ぬくもり取り戻そう」 地域の“たまり場”開設 神戸のNPO
神戸市長田区のカフェ・バーに今夏、地域交流カフェ「水たまり」がオープンした。運営するのは、重度障害者の自立生活を支援するNPO法人「ウィズアス」。障害の有無に関係なく、お年寄りから子どもまで誰でも集えてつながる地域の交流の場を目指すという。理事長の鞍本長利さん(72)に活動に寄せる思いを聞いた。【まとめ・桜井由紀治】
――「水たまり」という名称の意味は。
◆「ウィズアス」のあるJR新長田駅北側の水笠通地区で、人が集まる「たまり場」になればという願いを込めました。
――活動の背景には何があったのでしょうか。
◆長田区はかつて下町の温かさが残る地域でした。それが、阪神大震災(1995年)で大きな被害を受け、街は一変しました。再開発できれいなビルやマンションが立ち並びましたが、人とのつながりは希薄になっていったように感じます。
――震災前はどんな街でしたか。
◆震災前は住民同士のふれあいがありました。子どもが銭湯でおっちゃんの背中を流してあげると、ラムネをおごってもらいました。市場へお母さんの買い物についていったら、肉屋のおばちゃんからコロッケをおまけしてもらったこともあります。地蔵盆になると、子どもたちはあちこちのお地蔵様を回り、お供えのお菓子をもらうのを楽しみにしていました。
住民の生活の場が地域のコミュニケーションの場でもあり、地域の中で子どもを育てていくという気概もありました。それが、どんどん姿を消していってしまいました。
――どう変わったと感じますか。
◆お年寄りは連れ合いを亡くし、毎日一人でご飯を食べていると聞きます。人と話をする機会がなくなり、子どものことも気にかけなくなってしまう。全国で子どもの悲しい事件が相次いでいるのも、地域の希薄さと無関係ではないと思います。
――地域再生の試みですね。
◆もう一度、生まれ育った地域の中で互いに支え合う関係を作り出す取り組みが必要だと痛感しています。ささやかな活動ですが、人とのぬくもりを取り戻す試みです。
――地域では車いすの人をよく見かけますね。
◆私たちは「ウィズアス」で、障害のある仲間たちが当たり前に地域で暮らせるよう支援をしています。「水たまり」の会場にした「デッサン」は元々、そんな仲間たちが気兼ねなくお酒や食事を楽しめるようにと、2003年に同じ場所にある自宅1階にオープンしたカフェ・バーです。当時は、車いすの障害者も利用できるバリアフリーの店は珍しく、デッサンは彼らの願いが形になった場です。ここで、障害のある仲間や子ども、お年寄りらが笑顔でふれあう。そんな情景を思い描いています。
――カフェのシステムを教えてください。
◆「朝だまり」と呼ぶモーニングタイム(午前7~10時)は、私がパンにサラダ、目玉焼きとドリンクを用意します。小学生は100円、中高生は300円、大人500円です。「昼だまり」と呼ぶランチタイム(午前11時~午後3時)は、私の妻が担当して、カレーやスパゲティなどの食事メニューをそろえています。小中高生400円、大人600円で、赤字覚悟の価格設定です。
小中高生は食事が必要なければ、注文しなくても結構で、食べ物や飲み物を持ち込んでもかまいません。気楽に立ち寄って、自由に過ごしてもらえればいいなと思っています。
――カフェがオープンして、どんな光景が見られますか。
◆夏休みに入って、子どもたちがカフェで宿題をしたり、店のピアノを弾いたりしています。お年寄りの中には、子どもたちの宿題を見てあげる人もいます。
夜の部の「夕だまり」(午後5~8時予定)も調整中です。カフェの前に縁台を出して、スイカを食べたり、花火を楽しんだりという昔懐かしい光景がよみがえるかもしれません。
――メッセージの「笑顔のバトンタッチ」に込めた思いは。
◆笑顔を人から人へとつないで地域に広げていきたいという思いを込めました。ただ、活動は私たち夫婦だけなので限界があります。お手伝いしてくれる人、大歓迎です。一緒に笑顔のバトンをつないでいきましょう。
地域交流カフェ「水たまり」
神戸市長田区水笠通4の1の12の「カフェ・バー デッサン」で。土・日・月曜と祝日休み。問い合わせは「ウィズアス」担当の鞍本さん(電話078・642・0799)。
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