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2023.08.21

日光東照宮の修復に使う和紙の工房を再建 21年の豪雨で被災 佐賀

 2021年8月に佐賀県内を襲った豪雨で被災した江戸時代から続く佐賀市大和町名尾地区の和紙製造「名尾手すき和紙」が近くに新工房を再建し、7月から本格稼働を始めた。旧工房は土石流で地盤がえぐられ、倒壊の危険があるため移転を余儀なくされたが、新工房で紙すきを始めた谷口弦さん(32)は「300年つないできた歴史の、次の100年をこの工房でつくっていきたい」と意気込んでいる。

 名尾地区では1690年ごろから和紙作りが始まったとされる。昭和初期には100軒ほどの工房があったというが、現在は谷口さんの工房1カ所だけ。原料に一般的なコウゾやミツマタではなく、梶の木を使うのが特徴。木も代々自家栽培しており、毎年2月に高さ3メートルほどに伸びた木を切り、はいだ樹皮を乾燥させて原料にする。

 繊維が長いため丈夫で、祐徳稲荷神社(佐賀県鹿島市)のおはらいの紙や、博多祇園山笠(福岡市)や祇園祭(京都市)のちょうちんなどに使われている。日光東照宮(栃木県日光市)や唐津くんち(佐賀県唐津市)では文化財の修復に用いられ、各地の伝統行事や伝統芸能との結びつきも深い。

 21年の豪雨では、裏山からの土石流で工房が傾き、床に亀裂が入り、工房横の店舗や裏の自宅にも土砂や泥が流れ込んだ。工房には江戸や明治、大正時代から受け継がれてきた道具が数多くあり、失えば工房の存続にも関わる。「道具は命の次に大事なもの」。谷口さんは、雨の状況を見極めながら、土石流に襲われた工房から父祐次郎さん(58)と必死に道具を運び出した。

 豪雨後は泥をかき出したり、がれきを除去したりと復旧作業に追われ、3カ月間は仕事ができなかった。「もう紙すきはできないかも」「どう続けていけばいいのか」。不安な日々が続いたという。

 そんな時、取引先である全国の神社や寺、伝統工芸関係から励ましの声が続々と届いた。「和紙づくりの伝統は自分たちだけのものではない。使ってくれる人、支えてくれる人がいてのもの」(谷口さん)と気づき、復興への大きな支えになった。

 新工房は、旧工房から200メートルほど離れた平らな土地に建つ。22年10月に着工し、今年2月に完成した。広さも2倍になった。道具などを旧工房から徐々に運び込み、7月に本格稼働した。谷口さんは「被災による移転をポジティブに捉え、新工房を舞台に新しい商品作りなど、名尾和紙をアップデートしていきたい」と話している。【斎藤毅】

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