ソーシャルアクションラボ

2023.08.21

「廣島魂」胸に ボランティア集い土砂災害乗り越えたお好み焼き店

 「絶対に再開してね」。2014年の土砂災害で一瞬にして壊滅的な被害を受けた広島市安佐南区緑井には、全国のボランティアの励ましと支援で4カ月後に営業再開にこぎつけた飲食店がある。店主の西村伸さん(43)が家族と営むお好み焼き店「うつろ木」。被災直後にボランティアたちに無償でおにぎりをふるまい、全国から集まる人たちの拠点になった。9年たっても「ただいま」と顔を出す「うつろ木ファミリー」に囲まれ、鉄板の前に立ち続けている。

 14年8月20日未明、雷雨がひどく停電で店舗周辺は真っ暗だった。西村さんと妻美智子さん(42)、母智子さん(70)は「まさか山が崩れているとは思わなかった」。明るくなって駐車場の方を見ると、車の上に人が立っていて、ようやく被害の深刻さに気づいたという。店舗の入り口は土砂でふさがり、入り口付近に穴を掘らないと入れなかった。床上浸水した店舗内ではテーブルが浮かび、いすが流されていた。冷蔵庫の中は泥沼だった。

 やがて全国からボランティアが駆けつけ、重い土のうの運搬や店内の土砂のかき出しなど身内だけでは手に負えなかった作業を手助けしてもらった。

 ボランティアの恩返しにと、西村さんらは営業できずに余った食材でおにぎりとみそ汁を作り、ボランティアに配り始めた。「自分にできることをしようと思った」と智子さんは振り返る。周辺で復旧作業をするボランティアへとつながりは広がり、全国から届く支援物資の米と野菜を使って1日に500~600人分の食事を提供することに。被災地がどんよりとした空気に包まれる中、「ここに来たらみんな笑顔じゃね」と言われるなど、店はいつしかボランティアの拠点のような場所になった。西村さん一家は災害を経験し、「温かいできたてのものを1食でも食べられるありがたさ」を身にしみて感じたという。

「戻って来られる場所に」

 ボランティアの助けもあり店は4カ月後に再開。伸さんは「最初に被害を見た時には再開できると思えなかった。いろいろな人に『絶対に店を再開してね』と言われたのが励みになった」と話す。再開後にはボランティアの人がTシャツを作ってくれた。胸には「廣島魂」の文字。災害から9年がたった今も従業員が着用し店に立つ。

 店を再開後には18年の西日本豪雨では呉市で土砂かきなどのボランティアを経験。東日本大震災の被災地も訪れ、復興途上の街の様子を見て災害の大変さを実感した。

 災害から9年となった20日。当初から手伝ってくれたボランティアが店を訪れ、「あの頃は大変だったよね」などと話したという。伸さんと家族は店近くの砂防ダムを訪れ、久しぶりに近所の人たちと再会。ただ、ダム周辺にあった同級生の実家はなくなっており、「どこに行ったのかなと気になった」と心配する。その上で、「被災して引っ越しても戻って来られる場所でありたい」と話した。【武市智菜実】

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