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2023.08.27

赤字路線再生の星に 豪雨被災のJR日田彦山線、BRTで28日開業

 2017年7月の九州北部豪雨で被災し不通となっていたJR日田彦山線の一部区間が、専用道などをバスが走る「バス高速輸送システム(BRT)」に形を変えて28日に開業する。被災した鉄道路線がBRTとして復旧するのは、11年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた、JR東日本の大船渡線と気仙沼線に次いで3路線目だ。少子高齢化などの影響で利用者が減り、地方の鉄道事業が厳しさを増すなか、地域の足を守るモデルケースとなるか。

 8月中旬、日田彦山線の添田(福岡県添田町)―久大線の日田(大分県日田市)間。BRTの事業主体であるJR九州(福岡市)から運行管理業務の委託を受けるJR九州バスが、BRT専用道区間などでバスの試走を繰り返していた。

 彦山(添田町)―宝珠山(ほうしゅやま)(福岡県東峰村)間の、かつての単線線路を舗装した専用道区間(約14キロ)は、バス1台が通れるほどの道幅だ。バス同士の正面衝突を防ぐため、運行拠点のJR九州バス添田支店で車両の走行位置を常時把握し、運転手は手元のタブレットで専用道進入の許可を得る。バスが専用道に入ると、トンネルや橋などで走行の安全性を入念に確認した。

 納所(のうしょ)英孝支店長は「安全はもちろん、心地よく乗ってもらえるよう準備をしている」と万全を期す。

 「ひこぼしライン」と名付けられたBRTは、日田彦山線の添田―夜明(日田市)間の不通区間と久大線の夜明―日田間をつないだ計約40キロを、沿線をイメージした緑や青色などの電気バス4台とディーゼルバス2台(予備1台)が走る。車窓からは棚田や緑豊かな山々の景色を楽しめる。

 専用道以外は一般道を走り、停車場は鉄道時代の3倍の36カ所で、運行本数は10本多い32便。運賃は同額だ。時刻表にも「路線」として掲載が維持される。一方、添田―日田間の所要時間は平均1時間32分で、鉄道に比べ平均36分延びる。

採算性で鉄道再建断念

 日田彦山線は、城野(北九州市小倉南区)―夜明間の約70キロで、かつては沿線で採掘された石炭や石灰石を運ぶ重要な輸送手段だった。炭鉱閉山後は過疎化が進み利用者が急激に減るなか、6年前の九州北部豪雨では添田―夜明間で橋脚が傾き、駅舎が倒壊するなど63カ所で被害が出た。

 JR九州と福岡、大分両県や沿線自治体(添田町、東峰村、日田市)は当初、鉄道での復旧を前提に協議を重ねたが、JR九州は56億円に上る巨額の復旧費や、不通区間の大幅な赤字を理由に「無条件の鉄道復旧は困難」と転換。鉄道復旧の条件として、自治体側に年間1億6000万円の支援を求め、次善策として示したのが復旧費や維持管理費が安価なBRTだった。

 沿線自治体は鉄道復旧を求め反発したが、復旧の停滞を懸念して受け入れに転じ、20年7月にBRTによる復旧で合意。総事業費26億円は全額JR九州が負担し、永続的な運行に責任を持つことを確約した。

期待と課題

 BRT開業に、添田町の担当者は「持続可能な公共交通となるよう、道の駅や周辺施設と一体的な取り組みをして交流人口を増やしたい」、東峰村の担当者は「沿線自治体を巡る観光コースを作るなど利用促進に努める」と期待を込める。

 利用者は主に高校生や高齢者が中心とみられ、東峰村は、停車場まで約70段の階段がある大行司駅(東峰村)のバリアフリー化を検討するなど利便性の向上を目指す。

 だが、事業見通しは甘くない。JR九州によると、鉄道時代の添田―夜明間の1日当たりの平均通過人員は1987年度の665人から、被災前の16年度には131人と約8割減少。沿線の3市町村の人口は90年の9万9583人から15年の7万8621人と2割減り、減少に歯止めはかからない。現在、添田―日田間を走る代行バスの1日平均乗車数は約60人にとどまる。

 災害の不安もつきまとう。今年7月10日の九州北部を中心に降った大雨では専用道の築堤の一部が崩落し、予定通りの開業が危ぶまれたが急ピッチで復旧した。

 JR九州の古宮洋二社長は「病院の前など小刻みに駅、バス停があるので鉄道時代より格段に利用しやすくなったと思う。これが完成形とは思っていないので開業後もいろんな方々、ご利用の方々の意見を聞きながらできることはやっていきたい」と強調する。

 福岡大の辰巳浩教授(交通計画)は「持続可能な路線にするには、まず利用者を確保することが求められる。JR九州は利用者のニーズをとらえたダイヤや運賃体系にし、乗り継ぎにも配慮する必要がある。一方、沿線自治体は、住民が日常的にBRTを使える環境を作らなければならない。そのためには、BRT沿線に利便施設を誘導するなどのまちづくりが求められる」と指摘する。

【下原知広】

バス高速輸送システム(BRT)

 専用道やバスレーンを整備しバスを走らせることで迅速性や定時性を確保したり、車両を連結させて輸送能力を高めたりする交通システム。建設・維持費が鉄道に比べ安価で、路線を柔軟に変更できるなどのメリットがある。BRTは「Bus Rapid Transit」の略。

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