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2023.09.02

住民、喜びと戸惑い 熱海土石流で警戒区域解除、復興なお遠く

 1日にあった静岡県熱海市伊豆山地区の「警戒区域」解除。一帯が土石流にのまれた「あの日」から約2年2カ月、立ち入りを阻んできたロープがようやく撤去された。だが、大部分でライフラインの復旧や住宅の修繕は進んでいない。「帰還にはまだ時間がかかりそうだ」と様子見する住民の姿が多く見られた。【皆川真仁、最上和喜、長沢英次】

避難生活「毎日が監獄だった」

 これまで原則立ち入りを禁止されていた区域内に足を踏み入れると、大きな被害を受けた住宅はすでに解体され、がれきはほとんど見当たらなかった。土砂と一緒に流されてきた砂利や岩石も道の脇に寄せられていた。しかし瓦がはがれ落ちた屋根や崩れた壁を覆うビニールシートは、被害の大きさを今も雄弁に物語っていた。

 自宅が半壊した小松昭一さん(91)は「2年2カ月の避難生活は本当につらかった。近所付き合いもなく、毎日が監獄に入っているようなものだった」と、ようやくかなった「帰宅」を喜んだ。90歳の妻は避難生活中に認知症の症状が出るようになった。小松さんは「目の前で土石流を見たショックが遠因になっていると思う。元の環境に戻り、状態が上向きになることを期待している」と話していた。

「まるでゴーストタウン、戻れない」

 今後への不安の声も聞こえてくる。現在、市内のアパートで避難生活を送る岩本とし子さん(80)は「お墓もあるし、昔から続いている家なので誰か住まないといけない。数カ月かけて壊れた部分を修理して、また住もうと思っている」という。だが自宅は先日、盗難被害に遭った。「一人暮らしなので、夜寝るときなど不安を感じてしまう。どうしたらいいものか……」と頭を悩ませていた。

 土石流で妻が犠牲になった田中公一さん(74)は、自宅の跡地に生い茂った雑草を刈りにやって来た。周囲を見渡して「ゴーストタウンのようだ。もう発災前には戻れない。ぼつぼつと帰ってくる人はいると思うけど」とつぶやいた。伊豆山地区の別の場所に家を建てて住む予定だが、「月命日には戻ってきて、自宅があった場所で妻に線香をあげようと思う」と先立った妻への思いをにじませた。

 理容店を営んでいた竹沢敏文さん(75)は仮住まいから自宅兼店舗に妻と戻り、家財の整理に追われた。1日の夜はホテルに泊まり、2日からわが家で生活を再スタートさせる。「土石流でえらい目に遭ったが、家を全部流された人に比べればまだいい方だ。店は9月中旬にはなんとか営業を再開させたい」と前を向いた。

 土石流を巡り市は、2次災害の恐れがあるとして、2021年8月に伊豆山地区の一部を警戒区域に指定した。砂防ダムの完成と不安定土砂の撤去が完了したため、この日午前に解除された。市によると、9月中に帰還できる見通しの住民は7世帯計13人で、年末までにはさらに6世帯計16人が区域内で生活を再開させる予定という。

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