2023.09.10
重さを「緊張の度合い」に例えて… 見えなくても楽しいゲームとは
「見ても見なくても見えなくても楽しめるボードゲーム『グラマ』」。その体験会が9月1日、神戸市内で開かれた。全盲で点字毎日記者の私も、参加者とのコミュニケーションを楽しみながら新感覚の協力型ゲームの魅力を満喫した。
「机の上を触ってみてください」。体験会の主催者で「グラマ」を開発した「一般社団法人ビーラインドプロジェクト」(東京都豊島区)の代表理事で大学3年生の浅見幸佑(あさみ・こうすけ)さん(20)に促され、私は手を伸ばす。細い板の先に丸いお皿が付いた十字型の天秤(てんびん)やプリン型の台座、重りの入った手のひらサイズの巾着袋が置かれている。
神戸市中央区の「神戸アイセンター ビジョンパーク」には、10人余りの参加者が集まった。視覚障害者は3人だ。
「グラマ」のプレーヤーは、違う量の重りの入った袋をそれぞれ手に取る。出されたテーマをもとに、ほかのプレーヤーとの対話を重ねながら、自分の袋の重さを言葉で伝える。2番目に重たいと思われる人の重りに近づくようにサイコロ型の木や碁石といった重りを足したり取ったりする。天秤の四方の皿に巾着袋を載せ、一斉に手を離す。天秤が釣り合ったら成功、崩れたら失敗。勝ち負けを競うのではなく、ほかのプレーヤーと協力して成功を目指す。「チームワークが鍵」というわけだ。
私は、視覚障害者の支援に取り組み、体験会に協力した「ネクストビジョン」の常務理事で全盲の和田浩一(わだ・こういち)さん(64)や作業療法士の女性、そして浅見さんと机を囲んだ。司会役を務めるプロジェクトメンバーで大学3年生の仲野想太郎(なかの・そうたろう)さん(20)から「コンビニにあるもの」というテーマが告げられ、プレー開始。浅見さんからは「鮭おにぎりです」と定番の商品名が。和田さんは「バナナ1本」ときっぱり。私は手に持った袋を何度も上下させ重さを確かめた末、「Lサイズの卵1個」と伝えた。最後に女性が「555ミリのペットボトル1本の底に手を置いて持った感じ」と表現。浅見さんが女性に「何の飲み物ですか?」と聞くと「天然水かな。持った時に手首がちょっと曲がる感じ」と補足。私が和田さんに「バナナの産地は?」と尋ねると「フィリピン産かな」との返事があり、浅見さんが「細身ですね」と念を押した。
2番目に重いのは和田さんの「バナナ」だろうということで、各自袋の重りを出し入れして調節。それぞれの袋を天秤の皿の上にそっと載せる。皿の下に手を添えて待つ。「せえの!」の合図でさっと手を離す。天秤は揺れも傾きもせず釣り合った。初回の大成功に拍手が起きた。お互いの重りを回して「成功の重み」を確かめ合った。
いよいよ「発展ルール」だ。近くで見ていた看護師の女性が、浅見さんに代わって入る。今度は気持ちの度合いを重さで表すという。仲野さんから出たテーマは「緊張感の度合」。少しの沈黙の後、作業療法士の女性が「新しく企画したワークショップを2回目に開く緊張度かな」と切り出す。私は、少し軽く感じる袋を手に「何度か行ったことのある場所で、何度か会ったことのある主催者のイベントを取材する感じ」と表現。和田さんからは「久しぶりに行った遊園地で、様子がよく分からない乗り物に乗る前の気持ち」との言葉が。「それは緊張度が高い!」と反応する私たちに和田さんは慌てて「私はそうした乗り物が大好き」と付け加えた。心配性という看護師の女性からは「やったことのない手術に対応する時のよう」とのエピソードが語られた。
今回も和田さんに合わせることに。しかし、天秤は私の方に傾き、失敗。参加者からは「成功しなくても、相手の話を聞き、質問し、思いやる過程に意味があるゲーム」「コミュニケーションは苦手だが、自然に話せて親近感が持てた」と好評だった。私は4回のうち、成功は1度だけ。残念だったが、初対面の人たちとの会話が盛り上がり、自身の体験や気持ちを振り返る機会にもなった。更に、コロナ禍で接触することから遠ざかっていたが、いろいろな人と会い、言葉を交わし、触る大切さを再認識した。
8人の学生で作る「ビーラインドプロジェクト」は「見ても見なくても見えなくても楽しめるもの」を増やすことを目的に活動している。「グラマ」は昨年、インターネットで資金を募る「クラウドファンディング」をもとに開発。高校生の時にメンバーに加わり、今は大学2年生という理事の横尾繁土(よこお・はんと)さん(19)は「グラマを使った企業向けのワークショップを考えている」と話す。
「グラマ」の正式発売は今年11月ごろの予定。障害の有無を越えて楽しみ、わくわくできる場が増えればと願う。【佐木理人】
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