ソーシャルアクションラボ

2023.09.10

山で出合ったカモシカとシカ 攻撃をしかけるのはどっち?

 一方は相手を気にし過ぎて警戒を強めるが、もう一方は気にせず我が道を行く――。山でカモシカとシカが出合ったとき、どのような行動を取るのかを東京農工大の高田隼人特任准教授(行動生態学)らの研究チームが約8年に及ぶ観察で調べると、通説に反する両者の関係が見えてきた。

通説は「シカがカモシカを攻撃」

 ニホンカモシカはウシ科の動物で、国の特別天然記念物に指定されている。体重は40キロ前後。山地に生息し、基本的に縄張りを持って単独行動をする。

 ニホンジカはシカ科に分類され、体重は60~100キロほど。10頭以上の群れで生活する。近年国内各地で生息数が増加。それまでほとんどすんでいなかった山地などに侵入し、体がより小さいカモシカを攻撃して排除しているのではないかという通説があった。

 研究チームは、長野県・浅間山の標高1900~2404メートルに広がる草原(60ヘクタール)で2015年4月~22年12月の計337日間、望遠鏡を使ってカモシカとシカを観察。両種が50メートル以内に近づいたときを「出合った」とみなし、確認できた計64回の出合いについて双方の行動を観察した。

カモシカがシカを追いやる場面も

 その結果、追走や鳴き声による威嚇、足の踏み鳴らしなど、カモシカからシカに対する「攻撃」は10回(15・6%)あったがシカからカモシカへの攻撃は一度もなかった。

 立ち止まって相手を注視する「警戒行動」にも違いがあった。カモシカでこの行動を確認したのは44回(68・8%)、1回当たり平均45・5秒だった。シカは21回(32・8%)とカモシカの半分以下、継続時間も平均9・2秒と5分の1だった。

 また、カモシカはシカと出合うと、頭を振ったり体や顔を岩や木にこすりつけたりといった「興奮行動」も示した。高田さんは「カモシカは縄張りに入ってきた競合種を気にするが、シカは移動性なので他の種が近くにいてもお構いなしなのだろう。通説に反して攻撃するのはカモシカの方で、少ない頻度だがシカを追いやる場面もあった」と話す。

過剰反応でストレス、繁殖に負の影響も

 ただし、シカから攻撃は受けないものの、シカと遭遇したカモシカが過剰に反応することで、餌を食べる効率が低下したりストレスが増えたりして、生存や繁殖に負の影響を及ぼしかねないという。高田さんは「シカの増加が著しく、カモシカは厳しい生存競争を強いられて浅間山で生息数が減っている。他の国内の山地を含め、シカの侵入でどんな影響が出ているのかを調べ、保全策を考えるきっかけにしてほしい」と話す。

 研究結果はオランダの行動学誌電子版(https://doi.org/10.1163/1568539X-bja10228)で発表された。【渡辺諒】

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