2023.09.19
折り返しの国連SDGs 目標達成が「危機的」な理由とは
米ニューヨークの国連本部で開かれた「持続可能な開発目標」(SDGs)を巡る首脳級会合「SDGサミット」は19日、2日間の日程を終えて閉幕する。2030年の達成期限までの折り返しを迎える中、加盟国は進捗(しんちょく)の遅れは「危機的だ」との認識を共有し、初日に採択した政治宣言では「早急な軌道修正と進捗の加速」を誓った。SDGsが掲げる「誰一人取り残さない未来」の実現は遠い。
「このサミットは誰かに責任を負わせたり、敗北を受け入れたりする場であってはならない」。フランシス国連総会議長は18日、サミット冒頭の演説で、世界人口の8%にあたる6億8000万人が30年時点でも飢餓から脱することができないとし、SDGsの実現は「国連主導の多国間主義がもたらす信頼と自信の回復」につながると訴えた。
SDGsは貧困や飢餓の撲滅、質の高い教育、ジェンダー平等、気候変動対策など17の目標と、それを具体化した169項目のターゲットで構成される。15年の国連総会で採択された。だが、今年7月に発表された国連の報告書によると、目標達成に向けて順調に推移するターゲットは15%にとどまる。48%は達成に向けた軌道から外れ、37%は15年の基準年から停滞もしくは後退している。
新型コロナウイルスの流行後、極度の貧困下で暮らす人々の数は過去30年間で初めて増加に転じた。SDGsの目標の一つである気候変動対策の遅れと頻発する異常気象は、他の目標の進展を遅らせるという悪循環を招いている。グテレス事務総長は18日の演説で「SDGsには世界的な救済計画が必要だ」と危機感をあらわにした。
最大の課題の一つが、資金調達だ。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、SDGsの達成に必要な投資額と実際の投資額との「資金調達ギャップ」は、途上国だけで年約4兆ドル(約590兆円)に達している。その半分以上は化石燃料からのエネルギー転換に関するものだ。
グテレス氏は主に先進国に対し「SDG刺激策」として少なくとも年5000億ドル規模の長期資金を求めている。政治宣言でもSDG刺激策を「前進させる」と明記したが、ギャップは容易に埋まらない。後発開発途上国(LDC)46カ国のグループを代表して演説したネパールのダハル首相は、LDCでは膨らむ対外債務がSDGsへの投資を妨げていると訴えた。
一方、国際社会の多極化が進み、国家間の合意形成が難しくなる中、サミット初日に政治宣言を採択して国際協調の枠組みを守ったことの意義は小さくない。西側諸国は存在感を増す新興国や途上国など「グローバルサウス」を重視し、こうした国々への関与を強化する政治的機会と捉えて、新たな支援策を打ち出して問題に取り組む姿勢をアピールした。
持続可能性に関する政策研究が専門であるインド工科大のアンブジ・サーガル教授は「世界はこの数年で、気候変動対策やパンデミック(感染症の世界的流行)への備えが不十分だったことの代償を経験した。政策立案者たちはSDGsの『不作為のコスト』の大きさを認識し、変革に向けた行動について考え始めたはずだ」と指摘している。【ニューヨーク八田浩輔】
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