ソーシャルアクションラボ

2023.09.20

災害復旧へDX活用進む 被害把握や工期短縮、安全確保も 愛媛

 石川県能登地方の最大震度6強の地震や台風7号の近畿地方縦断など、今年も各地で自然災害が相次いでいる。自分の住む地域がいつ被災地になってもおかしくない。防災・減災の取り組みに加え、土砂災害などからの迅速な復旧も重要だ。南海トラフ巨大地震の発生も予想される中、被災状況の早期把握と速やかな復旧に向け、ドローンなどの機器やデジタル技術を駆使するDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいる。【山中宏之】

 「ブウーーン」。ドローンが砂煙を巻き上げながら、ほんの数秒から十数秒で地上約100メートルの高さまで一気に飛んだ。地形のデータを集めるレーザースキャナーなどが搭載されている。愛媛大学や愛媛県、県内の建設・土木の関係団体などで組織する「えひめ建設技術防災連携研究会」(会長=バンダリ・ネトラ・プラカシュ愛媛大学防災情報研究センター長)は7月、2018年の西日本豪雨で土砂崩れが発生した松山市高浜地区で、当時と新技術による測量方法を比較する実証実験を行った。9月14日には関係者約100人を集め、見学会を開いた。

 同センターの田村弘文特定教授によると、高浜地区の土砂災害現場では当時、延べ213人の作業員が現地に赴き、延べ74日を費やして測量を行った。一方、ドローンなどを用いた測量技術「UAV(無人航空機)三次元レーザー測量」を用いると、作業員数は約3分の1の74人に、日数も27日短い47日で収まることが判明した。大規模災害時は被災箇所が散在するため、人員が不足しがちだ。新技術の導入で人員不足の解消と全体的な工期短縮が実現できるとして、復旧の迅速化が期待できる結果となった。

 他にも、作業員が危険箇所に入ることによって発生し得る2次災害を防ぐ▽人の手では難しい角度からも撮影できてより詳細な状況が把握できる――などのメリットがある。また、三次元で測量することでそのデータを道路や砂防えん堤の設計に生かせる利点もある。田村特定教授は「作業の大幅な省力化が図れる。一番大きいのは視覚化。地元住民らへの説明でも理解してもらいやすい」と指摘。関係者との円滑なコミュニケーションにもつながるとみている。

 ドローンを活用した被災地の状況把握に向けた動きは愛媛県庁でも進む。県道や河川、港湾などを管轄する土木部では実際に18年の西日本豪雨時にも利用。土木管理課技術企画室によると、16年に発生した熊本地震で情報収集に活躍したことを受け、同部では17年に導入した。同室の明日(あけひ)俊幸主幹は「これまで人が入れなかった場所も把握できる。職員の安全も確保した上で迅速に情報を収集できる」と話す。

 四国電力伊方原発が立地する伊方町には町役場など5拠点にドローンを配備している。県原子力安全対策課によると、大きな地震が発生した場合、拠点にいる町職員らがバッテリーの充電やカメラの設定、離陸地点への機体の移動をした後、県庁の災害対策本部員が遠隔操作で運航を開始する流れだ。

 主に道路状況を確認するが、地上100~150メートル程度で飛行するため、映像には火災などが映る可能性もある。その場合、県などの災害対策本部内で情報共有し、対応に当たるという。同課の担当者は「伊方町は比較的職員が少ないため、マンパワーを補える。省力化した上で効果が最大化できる道具」と位置付ける。道路が寸断されて孤立箇所が発生した場合でも「ドローンなら確認に行ける」と利点を挙げた。

 人命救助や孤立地域への物資の運搬などでもドローンの活用が進んでおり、災害からの復旧に欠かせない存在になっている。

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