ソーシャルアクションラボ

2023.09.22

「子どもにとって最適な環境とは」と悩み続けて|保活日記④

リストの下から2番目に残っていた認可外保育園。夫と長男(当時0歳)と見学に行くと、そこはちょっとうす暗い、マンションの一室でした。

それは2019年7月の末ごろでした。人気の認可保育園にあるような、衛生面に特別に配慮した調乳室や子ども用の手洗い場、トイレ、衝突防止クッションといった設備はありませんでした。

でも、園長先生はとても温かな人でした。そして見学当日に10月の入園を決めたのです。保活のプレッシャーから解放されたい、その一心でした(長男、ごめんなさい)。

とりあえず通ってみて、もしダメならそのとき辞めよう!」。

どこにも入園できず、最悪の場合、退職――。そんな不安を抱えながら「子どもにとって最適な環境とは」と悩み、あるかないかも分からない理想の保育園を探しつづける気力はとうとう、途絶えました。

そんな消極的な理由で入園を決めた保育園でしたが、振り返ってみるとわが家にぴったりな、とても良い園でした。

0~2歳児クラスまでの家庭的な園で、先生が子どもひとりひとりを丁寧に見てくれました。頻繁なお着替えがなく、お昼寝用ブランケットも数週間置きっぱなしでOK。とても気楽でした。いまではこの保育園でデビューできたことに感謝しかありません。

入園前に私を押しつぶそうとしていた悩みや不安は、実際に通うなかで薄れていきました。

頭で考える理念や理想よりも、現実に長男が遊んで食べて寝て、大きなケガもなく、それなりに笑顔で生活できる日々の積み重ねこそが、安心感につながっていきました。

一方で、念願の保育園生活が始まったにもかかわらず、別の葛藤が生じます。「保育園に預けて働く」、そのこと自体に疑問を抱き始めてしまったのです。

入園当時、長男は生後8カ月。

まだ歩けない、ミルクも必要な赤ちゃんを預けて働くことに、罪悪感を抱いたのです。「子育てに女も男も、家族も他人もない」、そう思っていたはずなのに、「母親は子育てをするべき」という固定観念が自分のなかにずっしりと根付いていた事実に愕然としました。

「長男は保育園で必要なケアを受けているし、お友達や先生と過ごす時間で成長している」。頭では分かるのですが、心が全然追いつきません

10カ月ぶりに復帰した仕事もお迎えの時間に合わせて時短勤務にしたため、常に時間に追われた状態。そのうえ長男は、よく発熱しました。1度の発熱で3、4日は登園できなくなります。わたし自身の中途半端な状態に、長男にも職場にも申し訳なさでいっぱいでした。

退職を考えたこともありました。でも、「半年たてば熱を出しにくくなる」という母の話を信じました。発熱、通院、夫や職場との調整、保育園への連絡――、目の前のことにだけ追われ、落ち着いて考えをまとめる余裕はありません。一日一日を乗り切るだけで精いっぱい、そんな日々でした。

そんな状態で年が明け、春がきます。4月には認可保育園へ入園できるとのお知らせが市から届きました。認可保育園に入園させる、という目標をほとんど忘れかけていたころ、保活が完結したのです。


転園と、新型コロナウイルスの流行で相変わらず混乱しながらも、6月ごろから生活が落ち着き始めました。一番の要因は発熱が減ったことでしょう。母の言う通りでした。テレワーク導入もあり、フルタイム勤務に戻すこともできました。仕事も以前より落ち着いてこなせるようになりました。

先生たちには子どもたちに、丁寧に向き合ってくれています。前の園と同じように安心して生活を送ることもできます。子どもの人数が多く、年上のお兄さんお姉さんと関わることができたり、手を動かして制作する機会やイベントが充実していたりと、この園ならではの魅力も見つかりました。

とはいえ、今でも、相変わらず「何のために子どもを預けて働くのか」というもやもやは抱え続けているのも事実です。

お金が必要だから?
仕事にやりがいがあるから?
頑張っている姿を子どもに見せたいから?

いろんな人のいろんな考えに触れたいなぁと思っていながら、これだ!という自分なりの答えはまだ見つかっていません。


器用に両立できない現実に落ち込んだり悩んだりするのは、子育ても仕事も、どちらも自分にとって大切だからなのかな、と今は言い聞かせています。

振り返ると、結果的には、計画した通りの流れをたどった保活でした。でも、道中は悩んだり迷ったり。我が家のたどった道は、たくさんある選択肢のうちの、一つにすぎません。

正解は簡単には見つからないけれど、悩むからこそ、子どもの笑顔や穏やかな日常の一コマなど、大切にしたいものが照らされる、
ということもありました。これからもわが家なりの一歩を模索しながら歩んでいきます。

市川保活日記 公開予定日

【書き手】石井遥。新聞社で、著作権関係の業務を担当している2児の母です。毎晩元気がありあまっている「恐竜」(3歳)に食べられそうになるため、睡眠不足。0歳のちぎりぱん(むちむちの腕)をさわり、癒やされながら、日々子育てしています。
暮らしている千葉県市川市でお気に入りの場所は、京成線の踏切。子どもが見たがるので踏切巡りをしていたら、いつのまにか自分もどっぷりはまってスカイライナーの通過を楽しみにしています。
※連載は、2021~2022年に執筆しました。