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2023.09.29

魚も「ハイブリッド」の時代 おいしさ追求、養殖ベンチャーの新技術

 異なる種類の魚を掛け合わせて、世界で唯一のハイブリッド魚(雑種)を開発・生産・販売するベンチャー企業「さかなドリーム」(千葉県館山市)が発足した。養殖界を活気づける救世主として期待されている。

 日本近海には約4000種の魚が生息しているが、その大半は漁獲量が不安定などの理由で市場にはほとんど出回らない。一方、養殖対象は限られており、ブリ類▽マダイ▽サケ・マス類▽クロマグロ▽ウナギ――だけで生産量全体の9割を占めている。

 さかなドリームは、魚の生殖に詳しい東京海洋大の吉崎悟朗教授が共同創業者となった。養殖の第1弾となるのは、味が絶品とされながら、入手・飼育が困難なため養殖向きではないとされてきたアジ科のカイワリを使ったハイブリッド魚だ。カイワリと近縁の魚を掛け合わせることでカイワリと同等のうまみがあり、かつ飼いやすく養殖に適している魚になった。来年にはテスト販売を始める予定だ。

 他にも4、5種類の開発に着手しており、カイワリのような味がいい「幻の魚」を掛け合わせた雑種が近い将来、家庭で気軽に食べられるようになりそうだ。

 ハイブリッド魚の生産には、吉崎教授らが開発した卵や精子のもととなる生殖幹細胞を使った「代理親魚技法」と呼ばれる最先端技術を使った。代理親となる卵からかえったばかりの魚(仔魚(しぎょ))に異なる種の生殖幹細胞を移植することで、自然交配によるハイブリッド魚の大量生産を可能にした。

 この技術で生まれたハイブリッド魚は先天的に子供を残すことができないため、会社側は養殖いけすから海に逃げ出しても天然の魚と交雑して自然界の遺伝子情報をかく乱する恐れはないと説明している。

 この技術は死んだ魚にも応用可能で、食べておいしかった魚の生殖幹細胞を取り出して移植に利用することもできるため、おいしい魚をさらに改良することもできるという。

 サケやマダイ、クロマグロなど養殖の「定番」を脅かす大ヒットがハイブリッド魚から生まれるのか。吉崎教授は「従来の養殖魚は病気に強い、成長が早いなど生産者の視点が重視されてきた。ハイブリッド魚を生み出すことで、食べ物を作る上で一番重要な『おいしさ』を追求できる」としたうえで、「水産業に新たなトレンドを作りたい」と意気込んでいる。【山下貴史】

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