2023.10.11
災害に「絶対大丈夫」はない 台風19号で3人犠牲 群馬・富岡
2019年の台風19号で土砂崩れが起き、3人が亡くなった群馬県富岡市内匠(たくみ)地区の区長の木下稔さん(65)は、今も土砂が押し寄せる悪夢を見ることがある。斜面の復旧工事は完了したものの、被災をきっかけに慣れ親しんだ土地を離れざるを得なくなった人もいる。12日で発生から4年。「ハザードマップをみて安心していたが、絶対に大丈夫ということは、この世界にはないのかもしれない」と語る。
台風が近づき、前日の11日から自宅周辺は強い雨が降り続いていた。12日も雨は激しくなる一方で、木下さんは仕事を早めに切り上げて帰宅した。ハザードマップを確認したのは午後4時ごろ。「念のため、と思ったが問題ないエリアだったので安心した」。しかし約20分後、ドーンという大きな地響きがして、地震のような揺れを感じた。自宅の明かりが一斉に消えた。
近くの斜面で、幅約25メートル、高さ約50メートルにわたって土砂が2度にわたって崩れた。慌てて家の外を見ると、道路がみるみる土砂で埋まっていった。隣家の車が押し流され、庭先に横倒しになっているのが見えた。木下さんは妻とともに、車で迎えに来てくれた長男の家に避難した。
3人の子どもたちが独立し、妻と2人でゆっくり暮らす「ついのすみか」として09年に市内から引っ越した。緑が豊かで勤務する会社からも近く、近所付き合いにもすぐになじんだ。
自宅は1階のウッドデッキなどが壊れたほかは大きな損傷はなく、家族やボランティアの協力を得て庭先の土砂などを片付けて1カ月ほどで帰ることができた。「私は運が良かったと思う」。それでも、寝室は1階から2階に移したという。
富岡市は20年度、市内の全12地区に自主避難計画の策定と防災訓練の実施を呼びかけた。ハザードマップなどに記載されていない危険な場所をチェックし、避難する基準を考えてもらうためだ。木下さんは「行政も市民も防災に対する意識が変わった」と評価する。
内匠地区で土砂崩れが起きた場所は「土砂災害警戒区域」の指定外だった。22年3月に復旧工事は完了したが、「それで安心という訳ではなく、早めの避難など自分の身は自分で守るという意識が生まれたと思う」と話す。
同年春に区長に就いた。追悼式典は同年のみ市が主催したが、そのほかは地元有志で続けている。これから先も亡くなった3人を悼み、忘れずにいるにはどうしたらよいか。木下さんと地元有志の人々は8月、近くの地区と合同で開催する夏祭りに追悼の思いを込めて花火2発を協賛した。
区長の業務を通じて地区の住民と深く知り合い、気にかけるようになった。来春には任期を終えるが、これからも何かが起きたら隣近所の住人に声をかけようと心に決めている。「あの災害を忘れず、区長としての経験を今後の防災に生かしていきたい」【日向梓】
台風19号
2019年10月12~13日に東日本を通過し、各地に記録的豪雨をもたらした。県内では初の大雨特別警報が26市町村に発令され、富岡市で3人、藤岡市で1人が亡くなり、9人が重軽傷を負った。住宅被害は全壊22棟、半壊296棟、床上浸水22棟。404世帯982人が被災し、被害総額は約410億9000万円に上った。県が設置した応急仮設住宅には富岡市と嬬恋村から2世帯9人が入居し、23年3月末に最後の1世帯が退去した。また、県や市町村が管理する道路や橋など703カ所で総額約238億円の被害があり、現在も南牧村と上野村の村道2カ所で復旧作業を続けている。
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