ソーシャルアクションラボ

2023.10.13

1日5分のあたたかな時間。ほっこり声かけの大切さ|白梅学園大学子ども学研究所から

はじめまして。白梅学園大学子ども学研究所の福丸由佳です。大学で、臨床心理学、家族心理学を教えています。

大学に着任する前の2005年から3年間、夫の仕事の都合で、米国シンシナティで暮らしました。上の子は小学1年生、下の子は生後3か月。小学校をはじめ、周りには日本人もほとんどいない孤独な日々でした。(冒頭の写真は、帰国後に子どもたちが幼いころ、川で遊んでいる様子を撮影したものです)

そこで出会ったのが、研究員としてお世話になっていたシンシナティ⼦ども病院で開発された「CAREプログラム」(CARE)です。このプログラムには、「孤育て」中だった私自身が助けられました

CAREは、Child-Adult Relationship Enhancement  の頭文字をとったもの。「子どもと大人の絆を深めるプログラム」という意味です。

〝parent〟(親)だけでなく、〝Adult〟――。子どもとかかわるすべての大人が対象なのも特徴の一つです。

想定されている⼦どもの年齢は、2歳前後から思春期くらいまで。特に、遊びや日常会話の場面を中心としたロールプレイを通して、「子どもとのあたたかい関係づくり」に大切なことを楽しく学べるプログラムです。

その内容を少しご紹介します。

大人は、⼦どもが「できていない」ときや、よくない⾏動をしたときに、つい、「ダメでしょ!」と注目してしまいがちです。でも、CAREでは、普通にできているとき、「いいな」と思うときこそ、そこに目を向けて⾔葉をかけることを⼤切にしています。

そんなときに使いたいのが「具体的にほめる・(子どもの言葉を)くり返す・(子どもの)⾏動を言葉にする」といったコミュニケーションです。

いいときにこそ注目されることで、子どもの行動も変化し、あたたかい関係が生じます。

例えば、きょうだいの子育てで「お兄ちゃんなんだから優しくしなさい︕」とたびたび注意するよりも、ブロックをちょっとかしてあげられたときに、「おもちゃをかしてあげて優しいね」と具体的にほめる方が、何が優しいことなのか伝わりますし、「優しい行動」もきっと増えていくでしょう。

「こうしなさい」「こんなことしちゃダメ」といった、命令や批判的なメッセージはできるだけ控えめにし、いいなと思ったことを具体的に伝えながらほめたり、⼦どもの⾔葉に耳を傾けて、くりかえしたり、何気ない姿や行動を言葉にして伝えたり……。

こうしたやりとりによって、あなたのことを、こんな風に素敵だなって思っているよおはなし聞いているよ、関心を持ってみているよ、ということが伝わりますよね。子どもの安心感にもつながりますし、お互いほっこりしてくるのではないでしょうか。

また、あたたかい関係とともに、大人からのわかりやすい伝え方についても考えていきます。

例えば「走り回らないで︕」と否定文で言うよりも、「ママのとなりに座ってね」と、どうしたらいいか肯定⽂で伝えた方が伝わります。子どもも、どう行動すればいいかわかります。結果的に、子どもをほめることも自然と増えていきます

CAREではゆっくりと、落ち着いて声をかけることも大切にしています。私自身、CAREを知る前は、「今日、どうだった?」などと、帰宅したばかりの小1の息子に、矢継ぎ早に質問していました。CAREに出会い、子どものペースについていく大切さを知ってからは、「おかえり、おつかれさま」と声をかけ、後は少し黙って待ってみる……。そうすると、子どもから話したくなる気持ちが自然と起きるものなのだと気がつきました。この姿勢、思春期の子どもたちとのやりとりでも、大切な気がしています。

わが子との関係づくりにも生かすことができたCAREですが、最初は「ママ友に伝えたい」と思って翻訳を始めました。

帰国後、少しずつCAREを実践する中で、「もっと多くの人に」という思いが強くなりました。みなさんからの後押しをいただき、東日本大震災後の2011年、任意団体「CARE-Japan」を立ち上げました。2020年には一般社団法人となり、今ではCAREのワークショップを実施できるファシリテーターが、全国に約200人いらっしゃいます。子育て中の親御さん、⾥親さん、医療・保育・教育現場、児童相談所の方々(⼤学がある⼩平市の児相でも)など、多くのみなさまに向けてワークショップを行っています。

これは、一般社団法人「CARE-Japan」のロゴです。ハートでキャッチ(こんな風に素敵だなって思っているよ)、耳でキャッチ(あなたのおはなし、聞いているよ)、目でキャッチ(あなたのこと、関心を持って見ているよ)、を表しています。

最後に、私がCAREを気に⼊っている理由を2つ。1つ目は、なにより、遊び心を大切に楽しく学べること。

2つ目は、1日中、意識して頑張りなさい、ではない点です(私もとてもできません…!)。CAREでは、子どもとよりよい関係をもつための「1⽇5分ほどの時間」を大切にしています。できれば遊びの中で、また、家事をしながらでも、こういう意識を大事にしながら、ほっこりした気持ちで声をかける――。こうした1⽇5分の積み重ねが、⼦ども自身の、⾃分を肯定する気持ちを育む⼒につながっていく。そして、私たち大人同士でも、こういうまなざしはお互い大切だなぁ、と感じています。

↑ 「CARE-Japan」のHP上の動画から。子ども役の福丸教授(右側)と、お父さん役のファシリテーターとのオンライン上でのロールプレイ場面です。CAREで大切にしてる、子どもとの関係作りに必要な声かけなどを知ることができます。オンラインでも実践しています。https://www.care-japan.org/

【話し手】福丸由佳・白梅学園大学子ども学部教授(家族心理学、臨床心理学)。白梅学園大学子ども学部長。子育ての専門家として、NHK Eテレ「すくすく子育て」、NHKラジオ深夜便「ママ深夜便」などに出演。一般社団法人CARE-Japan代表理事として、「CAREプログラム」を国内で広めている。23歳と16歳の2人の子どもがいる。

※原稿は、2022年に執筆しました