2023.10.17
南極氷河融解 温かい水塊の経路特定 世界初、北大など研究チーム
北海道大などの研究チームが、ヘリコプターを使った南極域の大規模な海洋観測を実施し、融解が進んでいる氷河に温かい水塊が流入している経路を世界で初めて特定した。地球温暖化によって南極の氷が失われ、海面上昇が懸念される中、将来的には世界規模で起こっている気候変動の予測も期待されそうだ。【真貝恒平】
「南極は謎に包まれていることが多い。だから、面白い」。北大低温科学研究所(札幌市北区)の研究室。中山佳洋助教(37)は研究成果を熱っぽく語ると笑顔を見せた。
中山助教が所属する同研究所と国立極地研究所(東京)の研究グループが南極を調査したのは2019年12月~20年3月。第61次南極地域観測事業の一環として、海上自衛隊の協力を得てヘリコプターを使った海洋観測を行った。以降の3年半の間、調査で得られたデータの解析などに取り組んできた。
南極大陸には、地球上の氷の約90%が存在し、全てが融解すると地球の平均海面は約60メートル上昇するとされる。特に日本が集中観測している「トッテン氷河・棚氷」は、昭和基地がある東南極で最大級の氷河で、氷が全て解けてなくなると海面が約4メートル上昇し、その影響の大きさから世界的に大きな注目を集めている。人工衛星の観測では、1979~2017年に海面が約0・7ミリ上昇したと推定される。
15年以降、オーストラリアや米国も海洋観測を行っているが、付近の海域は分厚い海氷や多数の巨大な氷山に阻まれ、過酷な自然環境から、陸に続く海洋部分(大陸棚)を包括的に捉える調査は行われなかった。
研究グループは南極観測船「しらせ」からヘリコプターで観測点に移動し、海洋観測器を投下。センサーから送られるデータを基に「トッテン氷河・棚氷」沖の67地点で温度や塩分を調査した。その結果、幅約150キロの広範囲で、水温が約1~2度と比較的高い水塊が、トッテン棚氷に向かって大陸棚上に流入していることが分かった。海水中では結氷点はマイナス2度程度で、十分に氷を解かす温度だった。
棚氷は陸上の氷河が海に押し出され、海に突き出た部分を指し、これが氷が海に流れ出るのをせき止めている。調査では、水温1~2度の水塊はトッテン棚氷に向かって流入しているものの、棚氷付近の水温は0度以下で、最も暖かい水塊は棚氷下部までは達していないことが明らかになった。ただし、少しの変化で、温かい水塊が棚氷下部に流れ込むようになれば、急激な変化が起こる可能性も出てきた。
メカニズム解明で海洋観測前進期待
温かい水塊が流入する経路の特定と融解のメカニズムが初めて解明されたことで、南極の新たな海洋観測の展開が期待される。中山助教は「現段階では最近のデータしかないが、外洋域には1930年代のデータも残っており、長期的なデータ解析が可能となれば気候変動の予測につながる」と指摘。ヘリコプターによる海洋観測について「厚い海氷や氷山に覆われ、観測不可能と考えられていた海域での観測を実現し、技術面で大きく前進した」と強調する。
研究成果は地球科学全般を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」にオンライン掲載されている。中山助教は今後の研究について「温かい海水が南極の氷を解かし、海の循環を変えるかもしれない。気候変動が進む中、南極の海と氷河がどう変化していくのか、明らかにしたい」と意気込む。
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