ソーシャルアクションラボ

2023.10.21

クマや森とも分かち合う恵み サステナブルなアラスカのサケ漁

 水産資源の持続可能な利用が州憲法に明記されているアメリカ唯一の州、アラスカ。米海洋大気局の公式サイトにはこう記載がある。「アラスカの漁業は、世界で最も管理された、サステナブルな水産業である」。その実態を探るべく、サケ漁を行う漁船に同乗し、数日間を過ごした。

 船長ほか3人の乗組員と共に、アラスカ南東部に位置するピーターズバーグという町を出航する。8時間かけて森が迫る沿岸部の漁場へ到着。許された操業時間は翌朝5時から午後8時までだ。サケに限らず、カニや深海魚なども、漁場と操業時間がアラスカ魚猟局により厳格に定められ、その監視には軽飛行機やボートが使われる。

 翌朝。時報通りに漁が始まり、巻き上げられた網には船が傾かんばかりにサケがあふれた。そんな漁を10回ほど繰り返した後、夜通し航行し、町へと戻る。翌朝一番に水揚げされた獲物は漁港で計量され、そのデータはすぐさま魚猟局へと送られる。どの海域で、どれほどのサケがとれたかに基づき、次の漁場が発表されるのだ。

 とれすぎた海域はしばらく禁漁となるが、魚猟局は川を遡上(そじょう)するサケを軽飛行機から観察し、十分な数が確認されれば再び解禁となる。これには、産卵するサケが多すぎるとその生育が妨げられる、という事情もある。

 サケ漁のシーズン前にも、魚猟局は川や稚魚の状態などを現地で調査する。蓄積されたデータに基づき、生物学的に許容できる漁獲量の上限を割り出し、それを下回る割り当てを決定する。乱獲を未然に防ぐためである。

 管理された漁業が生み出す恩恵は、関係者に還元されるにとどまらない。豊富な水産資源は、釣りを目的とする観光客を世界中から呼び寄せ、ホテルやレストラン、土産店など地元経済を活性化する。先住民たちは、魚を取る自給自足的生活を通して文化や伝統を守り、また、それ以外の一般住民にも相当数の漁獲量が割り当てられている。

 森へと還るサケはクマやオオカミの命を支え、その亡きがらは植物の栄養となる。豊かに育った森の養分は川から海へと運ばれ、プランクトンなど海の食物連鎖の起点を支える。その海で育ったサケたちが、人間を含めた自然界全体を潤すのである――しかも、永続的に。

 温暖化をはじめ、環境問題に思いをはせるとき、ともすると「人間などいないほうがいいのでは」と思ってしまうことがある。しかしながら、我々が適切に介入することで、自然を助けながら共存することができる。アラスカの漁業を通し、そんな光明を感じる貴重な体験となった。【松本紀生(写真家)】

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