2023.10.28
食卓を直撃する現代の「オイルショック」 背景に地球温暖化
健康志向もあって人気が高まっていた欧州産のオリーブ油の価格高騰が著しい。輸送コスト上昇や円安のためじわじわ値上がりしてきたが、この秋、一気に5割もの値上げに踏み切った商品もある。温暖化を背景にしたオリーブの不作が要因で、今後も繰り返される懸念がある。
「サラダにはエキストラバージンオイルを使いますが、加熱する料理にはヒマワリ油とオリーブ油のブレンドでしのいでいます」。東京都内のあるイタリア料理店主は明かす。コストを抑えつつ、できるだけ味や香りに影響しない工夫を続けているという。
総務省の消費者物価指数によると、食用油の価格は、2020年の水準と比べて9月には58%上昇した。さらにオリーブ油の場合、10月納入分から、主要メーカーが相次いで価格を改定した。家庭用と業務用について、日清オイリオは最大38%、J―オイルミルズは最大57%の値上げを発表している。
最大の要因は、オリーブの主要な産地である欧州での深刻な不作。スペインを中心とした地中海沿岸地域を去年と今年、2年連続で熱波や干ばつが襲ったのだ。
欧州委員会によると、22~23年シーズンのオリーブ油生産量は、スペインでは前シーズン比の減少幅が56%に達した。ポルトガルやイタリアを含む欧州連合(EU)全体では39%も減った。23~24年シーズンも低調となる見込みだ。
オリーブ油の価格は、スペインなどでは今年夏時点で、1年前の倍近くに上昇しているという。スペイン産を筆頭に年間約6万トン(22年)を輸入する日本も大きな影響を受ける。貿易統計(速報)によると、今年1~8月の輸入量は、前年同期と比べて15・7%減ったのに、輸入額は18・6%上昇した。
今後、生産状況が好転するとは限らない。地中海地域での干ばつは温暖化によって発生頻度が高まっている。気候変動についての海外の研究チームの分析によると、今年夏にスペインで発生したような激しい熱波は、南欧では10年に1度程度、発生すると予測される。さらにその熱波は、温暖化が無かったと仮定した場合の熱波より2・5度高いとの結果だった。
国内のオリーブの生産量の大半を占める香川県・小豆島では、異変は起きていないだろうか。県農業試験場小豆オリーブ研究所によると、南欧と違い日本では梅雨や台風で定期的な降雨があるため、オリーブ生産に影響するほどの干ばつなどは起きていない。
ただ、白井英清所長は「日本でも、オリーブの開花時期が早まる傾向があり、温暖化の気配を感じる。集中豪雨が増えれば、オリーブの水分量が増えてオイルの品質に影響することもあるのでは」と懸念する。
中東での戦争をきっかけに石油需給の逼迫(ひっぱく)と「狂乱物価」に見舞われたオイルショックの始まりから今月で50年。いま世界を覆うもう一つの「オイルショック」は、温暖化が私たちの食卓を直撃しつつあることを物語る。【三股智子】
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