ソーシャルアクションラボ

2023.11.04

「男性が好きな僕も生きていい」 母に涙のカミングアウト 滋賀

 NPO法人「にじいろBiwako」(大津市)代表の橋本竜二さん(33)=滋賀県栗東市=は「シスジェンダーのゲイ」(生まれの性別と自認する性が一致する男性で、性的指向として男性が好き)であるとカミングアウトしている。カミングアウトの経緯や現在の心境を語ってもらった。

 中学2年のころ、同性の友人に対して異性には感じたことが無かったドキドキを感じた。「もしかして好きということ?」と思った。男同士のため、日常的にじゃれ合いやスキンシップがあり、そのたびにドキドキする自分に気付いた。しかし、「気持ちを伝えたら最後。友達でもなくなる。いじめの対象にもなる。親も悲しむ。生まれ変わらない限り、(友達以上の関係になる)可能性はゼロだ」と思っていた。

母の言葉が今も宝に

 高校3年の時。「打ち明けてはいけないとの感情が、いっぱいいっぱいになり、しんどくなって、死にたいという気持ちが出てきた」。母親にカミングアウトしようと決意したが、泣き叫びながら「ごめん、ごめん」と言うのが精いっぱいだった。

 母から「何がごめんなさいやねん」と言われ、「女の人を好きになれへん」と答えた。母は「それは男の人が好きということか」と聞き返し、そのうえで「竜二が元気やったら、私はそれ以上のことは何も望まへん」と泣きながら言ってくれた。「『男を好きな橋本竜二』でいても許される、生きてもいいと初めて思えた」。この時の母の言葉は今も自身の宝となっている。

 直後に大津市内で、医師の面談を受けた。思いの丈を存分に伝えたが、「思春期の一時的な気の迷い」と見なされた。父親は「気の迷い」に賭けたかったようで、パートナーとの食事に同席してくれるまでに10年かかった。今では「新聞の取材を受けてくるよ」と言えるようになった。

 「カミングアウトして良かった」。しかし、「僕は」だ。カミングアウトしたため、家族に「家から出て行け」と言われた人たちもいるから、人にはカミングアウトすることを安易に勧められないし、「慎重に一緒に考えようと」と呼び掛ける。自分一人で生きていける状態を作っておくことがまず必要だし、学齢期の子供たちには「したらええよ」とは絶対に言えない。親が養育を放棄することもあるから。それくらい大きなこと。この社会においては。

 大学卒業後、不動産会社に勤めたが、職場ではカミングアウトしなかった。今は障害者の就労支援の仕事をしながらNPO代表を務めている。性的少数者(LGBTなど)は社会での生きづらさから心の病を抱える人も多く、自死の話も身近だ。相談相手から「死にたい」と言われ、返す言葉に悩むことがあり、専門学校に通って精神保健福祉士の資格を取った。

 性的少数者にとって明るい未来、明るいロールモデルがなさ過ぎる。日常にうまく溶け込んでいる人もいるが、その人たちがカミングアウトしないと成功例も可視化されない。しかし、今の日本がカミングアウトしやすい社会かと聞かれたら、そんなことはない。だからこそ目の前の、自分の手の届くところで何ができるのか、というところから向き合っていくしかないのかなあ。

当事者の集い設立

 9月、NPOの活動として、同県近江八幡市の県立男女共同参画センターで当事者らが悩みなどを語り合える場「にじびわべーす」を設けたところ、16人が集まった。初対面の人もいて、次回も開いてほしいとの声もあり、同じ思いの仲間の広がりを実感している。

 にじいろBiwakoのホームページ(https://nijibiwa.com/)。【北出昭】

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