ソーシャルアクションラボ

2023.11.26

COP28「未来守る合意を」 気候変動枠組み条約事務局長が寄稿

 地球温暖化を食い止め、持続可能な世界を将来に残すことができるか。30日からアラブ首長国連邦のドバイで開かれる国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は、国際枠組み「パリ協定」の下で国際社会が対策を前進させられるかを占う場となる。

 開幕を前にサイモン・スティル条約事務局長が毎日新聞に寄稿し、化石燃料への補助金を減らし、温室効果ガス排出削減に直結する対策などについて、COP28で合意することの重要性を訴えた。

 ここ数年、インフレは世界の多くの地域で「生活費危機」を引き起こしている。恐怖を利用する一部の扇動者たちはこの苦難を利用し、気候変動対策は負担しきれるものではなく、一般の人々の利益に反しているという説明を何十億もの人々に流布している。これほど真実からかけ離れたものはない。

 「環境配慮VS貧困」は分断をもたらす言説で、往々にして短期的利益を追求する利己主義を覆い隠すために使われる。安定的で、経済的にも持続可能な唯一の未来とは、エネルギー安全保障が確保され、災害に対してレジリエント(強靱(きょうじん))で、十分な資金による協調的な災害復興がなされることであり、最終的には産業革命前からの世界の平均気温の上昇を1・5度に抑えられる未来だけなのだ。

 石炭、石油、ガスなどの化石燃料は、何十億もの家計を限界まで逼迫(ひっぱく)させている生活費危機の主要因だ。物価はしばしば見られるように大きく変動し、不確実性や紛争によってさらに高騰している。その結果、輸送費、食費、電気代、基本的な生活必需品の価格が上昇する。化石燃料に大きく依存している一部の国では、そのコストが原因で、2022年には家庭に届く請求書の額が(前年より)1000ドル(約15万円)も上昇した。

 米財務省、インド準備銀行、欧州中央銀行などの経済当局によると、気候変動による影響が深刻化すれば消費者の負担はさらに上昇し、経済成長は鈍化する見込みだ。エネルギー価格の高騰はまた企業の利益率を低下させ、経済成長を阻害し、世界中でエネルギーにアクセスする権利を妨げる。インフレの打撃を最も受けるのは、最も貧しい世帯だ。

 こうした事態は、あらゆる国で気候関連災害もひどくなっているさなかに起きている。今年は、過去12万5000年で最も気温の高い年となる見通しだ。より破壊的な暴風雨、予測不能な雨や洪水、熱波、干ばつは既に甚大な経済的被害を引き起こしており、世界中の何億もの人々の命や生活が脅かされている。

 化石燃料の利用を直ちに止めることはできないが、まだ取られていない対策を取る機会はたくさんある。例えば、22年に各国政府は7兆ドル(約1000兆円)超の税金や借入金を化石燃料への補助金に充てた。その補助金は最貧困世帯の実質所得を守ることはできず、途上国の債務負担を増加させている。医療の改善、再生可能エネルギーや送電網も含めたインフラ整備、貧困軽減のための社会プログラムの拡充に活用することもできる資金が(化石燃料への補助金に)流用されているのだ。こうした補助金を責任ある形で段階的に削減すれば、実際に最も貧しい人々を助け、現在補助金に依存している国々の経済も改善することができるだろう。

 条約事務局では今年、これまでの気候変動対策に関する「グローバルストックテーク」(世界全体の対策の進捗(しんちょく)確認)を実施している。明らかになったのは進捗があまりにも遅いということだった。ただし、対策を直ちに加速させるためのツールもたくさんあるということも明らかになった。これらのツールによって同時に、より強固な経済が構築される。私たちは、公正・公平で、かつ誰一人取り残さないようにしながら、こうした移行を加速するための知識やツールを持っているのだ。

 何十億もの人々が、自国の政府がこれらのツールを手に取り、実行に移すことを必要としている。これには、数十億ドルの投資を化石燃料の新規生産から再生エネへと切り替えることも含まれる。これによって、安定的で信頼性が高く、経済成長を推進する安価なエネルギーを供給することにつながるだろう。これは需給双方に関わる問題だ。明かりをつけるためにエネルギーを必要とする私たちには、クリーンな選択肢が必要だ。また、私たちのコミュニティーと、そのコミュニティーが世界の変化に適応する能力に投資するための財政的な余裕を与えられる必要がある。

 楽観的になれる根拠はある。もし、ドバイで開催されるCOP28で、各国政府が協力の精神を携えて、解決策に一点集中して臨むのであれば、だ。COP28で、私たちは世界の再生エネの設備容量を3倍にする合意に至ることができる。エネルギー効率を2倍にすることも可能だ。各国が気候変動による影響に適応し、それを国家計画の中心に据えるのを支援すべく、資金を倍増させる方針も示せる。気候変動による「損失と被害」(を受けた国)に対して支援する基金を現実のものとし、気候正義の実行に寄与することもできる。そして、(脱炭素への)移行のための資金に関する(先進国から途上国への)これまでの約束を実現し、次のステップに向けた資金提供の素案を示すこともできる。

 一度の機会や一度の会議で、すべてを変えることはできない。それでも、私たちが今年(のCOP28で)合意する方向性で未来を守ることはできるし、25年に各国がどのような約束(温室効果ガス排出削減などに関する新たな目標)を提出すべきかの計画を示すことはできる。

 私は、恐怖を利用する扇動者たちが私の目を欺くことを許さない。そして皆さんも(そうした行為を)許すべきではないのだ。(訳は国連広報センター)

Simon Stiell

 グレナダ出身。英ウェストミンスター大でMBA(経営学修士)取得。グレナダの文部科学相、気候レジリエンス・環境相などを歴任。2022年8月、国連気候変動枠組み条約事務局長に任命された。

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