ソーシャルアクションラボ

2023.11.30

「孫世代のため逃げよう」吉里吉里中の巾着で命つなぐ取り組み

 優れた防災教育を顕彰する2023年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞=毎日新聞社など主催)のグランプリに、岩手県大槌町の町立吉里吉里(きりきり)中学校が選ばれた。「巾着で命をつなげ~HAPPY&SAFETYプロジェクト~」と題し、津波の際に高齢者が「孫世代のために逃げよう」と積極的に避難するきっかけ作りに取り組んだことが評価された。

 学校がある吉里吉里地区は太平洋岸に位置し、東日本大震災で95人が犠牲になった。プロジェクトは3年生の関谷璃美(りみ)さん(15)が町独自の総合学習「ふるさと科」の一環で発案し、同級生らの協力を得て進めた。

 関谷さんは今春以降、防災関連の学習を深める中で町内の震災犠牲者の過半数が高齢者だったことに衝撃を受けた。震災時も同校に勤務していた箱山聡子教諭(57)からは「私は年寄りだから(周りに負担を掛けるので)逃げない」と避難を拒んだ高齢者がいたことも聞いた。

 どうやったら高齢者が積極的に避難してくれるのか。考えるうち「生きることが誰かの役に立つと思ってもらえればいいのでは」と気付いた。震災直後は食事に事欠き、不安が広がったことも耳にしていた。お年寄りに甘いお菓子持参で逃げてもらい、避難場所で子どもに配ってもらおう――。あめ玉やキャラメルをもらった子はハッピー、持って逃げた高齢者はセーフティー(安全)となる活動を思い付いた。

 お菓子を入れる巾着は普段から関谷さんが小物入れに使っており、すぐに頭に浮かんだ。夏休みは同級生や下級生と巾着作りに励んだ。お菓子の詰め入れや地区の約50世帯への配布時には仲間の輪が広がり、最終的に全校生徒30人中11人が関わる活動となった。

 11月11日にあった町の津波避難訓練では、避難場所に巾着持参で訪れる高齢者がいた。「持ってきてくれてうれしかった」と関谷さん。卒業後も活動が地域に根付くことを願っている。【奥田伸一】

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