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2023.12.06

COPがきっかけ「クールビズ」 温暖化対策が変えた暮らし

 日常生活とはかけ離れた問題が議論されていると思われがちな国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)。今年はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイでCOP28が開催中だが、実は国民のライフスタイルの変化とも直結している。軽装で快適に夏を過ごそうという「クールビズ」は、元をたどればCOPがきっかけだ。どんな経緯があったのか。

 冬の装いになった師走の街でも、ネクタイ未着用のサラリーマンが目につく。クールビズをきっかけに、今や「ネクタイを着用しなくてもいい」というスタイルが季節を問わず浸透している。

ネクタイ「突然、悪者に」

 このクールビズ、きっかけは26年前の1997年12月、京都市内でのCOP3での決定にさかのぼる。COP3では先進国に温室効果ガス排出削減を義務づけた「京都議定書」が採択され、日本は「2008~12年に90年比で6%削減」という目標達成が課せられた。

 温室効果ガス排出を減らす暮らしへの転換を図るため、議定書が発効した05年、政府は「チーム・マイナス6%」という国民運動を始めた。その中で提唱されたのが電力消費を減らすための冷房の適正利用と夏の軽装化、つまり「クールビズ」だ。政府は当時「ノーネクタイ、ノー上着」と呼びかけた。

 この呼びかけで激変を余儀なくされたのが、ネクタイやスーツの業界だ。「突然ネクタイが悪者のようになってしまった。青天のへきれきだった」。東京ネクタイ協同組合の和田匡生理事長は、05年の世間の雰囲気をこう振り返る。

 クールビズ開始を受け、中央省庁を中心に夏場の6~9月にネクタイを着用しなくてもよい服装に一斉に切り替わった。

 和田さんら業界関係者は、小泉純一郎首相(当時)にすぐに陳情。クールビズの期間短縮と、「ノーネクタイ」というネクタイを否定するような表現の使用中止を求めた。政府はその後、「ノーネクタイ」という言葉の使用はやめたが、和田さんによると小泉氏からの返答は「業界として創意工夫してほしい」といった内容で、ネクタイなしの「クールビズ」推進が覆ることはなかった。

 IT企業の成長とともに、ビジネスの現場では90年代からカジュアルな装いが広まりつつあったが、クールビズは業界にとって過去に例のない逆風だった。11年からは軽装を呼びかける期間が5月開始に前倒しされた。

「年半分が軽装」ネクタイ業界の模索

 クールビズ開始以降ネクタイの流通本数は右肩下がり。贈答用に売り上げが増える「父の日」のある6月がクールビズ期間に重なったことも痛手だった。クールビズ1年目の05年の流通量は国産、輸入合わせて計4027万本だったが、22年は1106万本と05年の3割以下まで減った。

 団塊世代の大量退職も関係しているとはいえ、和田さんは減少幅の半分以上がクールビズの影響とみている。「ネクタイは男性にとって個性を出せる主張の一つ。冠婚葬祭や大事な商談などTPOに合わせて使っていただいているが、1年の約半分がクールビズ期間の現状では、かつてほどに購買頻度を高めてもらうのは難しい」と話す。

 気候変動は人類が直面する最も深刻な問題の一つで、この危機を乗り越えるには暮らし、経済のあらゆる側面で変革が必要だ。ドバイで開催中のCOP28には企業関係者も多数参加し、イベントで自社の取り組みをアピールするだけでなく、脱炭素社会実現に向けて、ビジネスの方向性などを議論している。

 地球温暖化対策を推進する中で、ネクタイ業界は他の産業に先駆けて変革を迫られた。苦境に立ちながらも業界内では生き残りをかけて、日々新たな切り口で販路拡大を模索している。最近ではジェンダーレスの流れに対応するため女性客にも間口を広げようとしている。

 和田さんは「温暖化対策は避けられないものだった。我々の業界も時代とともに柔軟な発想で変わっていければ、生き残っていけるのではないか」と模索を続ける。【山口智、ドバイ岡田英】

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