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2023.12.06

100年前の黒点スケッチ、天文学の貴重データに 長野の教諭が記録

 約100年前、長野県の旧制中学校の教諭が14年間ほぼ毎日、太陽の黒点をつぶさに記録し続けた。その克明かつ膨大なスケッチが、太陽活動の長期変動を理解する上で貴重なデータであることが分かったと、名古屋大などの研究グループが5日発表した。今月発行の英王立天文学会月報に論文が掲載される。

 長野県三水村(現長野市)の農家に生まれた三澤勝衛(かつえ)氏(1885~1937年)は、県内の小学校などで教員を務めた後、35歳で同県立旧制諏訪中(現諏訪清陵高)に赴任し、地理の授業を担当した。

 21年、授業の一環で生徒たちに望遠鏡を使って太陽の黒点を観察させたところ、複数の大きな黒点が現れていたのをきっかけに興味を抱き、34年に白内障で観測できなくなるまで毎年約300日間、黒点の数や位置を丹念に記録し続けたという。

 国際的な天文学の世界では、欧州の観測所が代々「基幹観測所」となり、黒点を観測するとともに、世界中から観測データを収集してきた。ところが、基幹観測所が交代する際、望遠鏡の性能の違いなどから、データがずれる課題があった。

 三澤氏がスケッチを続けていた25~28年はこの交代期に当たり、従来ずれが指摘されていた。また、二つの世界大戦のはざまで、観測が手薄な時期でもあった。

 そこで、研究グループは諏訪清陵高三澤文庫に保管されていた三澤氏のスケッチを評価し直した。その結果、ずれを補正できる長期安定した独立データであることが分かったという。

 研究には、現在の基幹観測所であるベルギー王立天文台の研究者も参加した。三澤氏の記録を今後、太陽活動を評価するための基礎資料として役立てることを国際チームで検討しているという。

 三澤氏の偉業を掘り起こす作業は、長野県の研究者や市民らで作る「長野県は宇宙県」連絡協議会を中心に進められた。会長の大西浩次・長野工業高等専門学校教授は「一生懸命観測した記録が巡り巡って世界で認められたのは、三澤氏の志の高さと情熱があったからこそ。100年前のデータが全て残されていたこともすばらしい」と語った。

太陽黒点

 太陽の表面に現れる黒い斑点。周りより温度が低いため黒く見えるが、磁場は強く、密集した場所ではフレア(爆発)が活発に起きている。現れたり消えたり、形や大きさが絶えず変化したりする。黒点の数は11年周期で増減し、多い時期は太陽活動が活発になることが知られている。

 活発な太陽活動は通信障害や人工衛星のトラブルを招く恐れがあり、世界各国が日々監視している。また長期的には地球の気候を左右するため、数百年単位で黒点の増減を評価することは、地球環境の将来予測にも役立つ。【阿部周一】

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