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2023.12.08

原発は温暖化対策の「切り札」か 識者が指摘する気候変動のリスク

 急速に進む温暖化対策の「切り札」として、原発への回帰が強まっている。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催中の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、2050年までに世界の原発の設備容量を3倍にするという目標が掲げられ、日本も参加した。だが、その流れに異を唱える報告書が10月に公表された。原発は気候危機に耐えられるか――。

 この報告書は、NPO法人「原子力資料情報室」がまとめた。全体で6章からなり、気候変動が引き起こす異常気象が原発に及ぼす影響について、経済性や安全性などの観点から、海外の事例や研究も踏まえて考察している。

 その一つが冷却水の問題だ。原発は、原子炉を冷やすため海や川から大量に取水している。温暖化で水温が上がると発電効率が悪くなり、川の水が干上がれば、運転自体ができなくなるなど、経済性が損なわれるとしている。

 実際に欧州では03年の熱波以来、河川の水温上昇や干ばつで、原発の出力制限や運転停止を余儀なくされる事態が起きている。

 原発の設備も影響を受ける。激甚化する台風や大雪で、原発構内の配管や送電線などの設備が壊れる可能性もある。20年には米アイオワ州の原発が竜巻のような暴風で停止。冷却塔がかなりの損傷を受け、閉鎖されることになった。

 さらに、異常気象による豪雪や森林火災などと原発事故が重なれば、避難・輸送ルートに障害が起き、住民の避難を妨げかねないとも指摘している。

 報告書は「気候変動の激化とともに原発の利用環境や安全性が損なわれていく」と指摘。太陽光や風力などの再生可能エネルギーと比較して、原発の新設にかかる時間が長く、コストが高いことにも触れ「原発には多くのリスクが存在しており、巨額の資金と時間を投じて原発を推進することは温暖化対策として合理的ではない」と結論づけた。

 執筆者の一人で、千葉商科大の鮎川ゆりか名誉教授(環境・エネルギー論)によると、11年の東日本大震災が起こした津波や原発事故が、欧米では「気候変動が進行した場合に想定される最悪の事態」と認識され、原発の脆弱(ぜいじゃく)性を指摘する研究が広がったという。

 しかし、国内では政府が原発の60年超運転を可能にするなど積極利用の方針を掲げながらも、原発と温暖化を結びつけた研究や議論はほとんど見られない。

 日本では欧米のような影響はまだ出ていないが、鮎川さんは「地震のように予測が難しい事象とは違い、温暖化は100~300年後の影響が見通されている。温暖化が確実に進んでいる中で、原発への影響について議論すらされていない現状は、政府や電力会社が温暖化を信じていないことの表れだ」と批判する。

 報告書は計48ページ。情報室のホームページ(https://cnic.jp/50004)から入手できる。8日午後3時からオンラインで、報告書の内容についてセミナーを開催する。問い合わせは情報室(03・6821・3211)。【高橋由衣】

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