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2023.12.11

日本有数のコメ産地・大潟村、熱供給にもみ殻活用 国内初の計画進む

 男鹿半島の付け根にある国内有数の稲作地帯、秋田県大潟村が、もみ殻を利用したバイオマス地域熱供給システムを2024年7月に本格稼働させる日本初の計画を進めている。離島で電力や熱エネルギーを自給する北欧デンマークの取り組みにも学び、「自然エネルギー100%」の村づくりを加速させる。【高橋宗男】

 村の水田、約9000ヘクタールからは年間6万1000トンほどの米が生産され、全国の市町村で6位の規模を誇る。その副産物として同約1万2000トンのもみ殻が出るが、7割は有効利用されていない状態だという。

 「もみ殻を燃料とするバイオマス構想は国内では初めての試み。日本の地域熱供給事業のさきがけになるのではないか」。大潟村の高橋浩人村長は今年9月22日、プラント建設工事の安全祈願祭でこう強調した。

 村のバイオマス構想では、収穫後のもみの鮮度を保つため、低温保存し出荷時にもみすりをする「カントリーエレベーター」の敷地内に出力350キロワットのボイラー2基を設置し、発生するもみ殻のうち年間4000トンを燃料として使う。温めたお湯を計7キロの熱導管で循環させ、役場や学校などの公共施設や温泉施設、老人ホームなどの給湯や暖房用に熱供給する。

 燃料となるもみ殻の量にはまだ余裕があり、将来的にはボイラーをさらに2基増設し、一般家庭への熱供給にもつなげたい考えだ。

 ボイラーや熱導管は再エネ先進国として知られるデンマークから輸入した。もみ殻を熱エネルギーとして利用するのに適したサイズのボイラーが国内になかったためだ。電力と熱エネルギーを自給できる体制を整えているデンマーク・サムソ島の事例も参考にした。

 村のバイオマス構想に関わる秋田県立大の頼泰樹准教授(土壌学)は「特殊な技術ではない。日本が淘汰(とうた)してしまった技術を現代風にアレンジして使おうという事業」とし、「もみ殻は放っておいたらごみになる。常に乾燥しているし、燃料としてこれほどいいものはない」と指摘する。

 また、実証試験で、燃焼後に灰ではなく燻炭(くんたん)として再利用できる見通しも立った。頼准教授は燻炭の利点について「まずは育苗に使い、次に農地にも入れる。もみ殻をそのまま農地にまくと10年ぐらいで分解されて二酸化炭素が出てしまうが、炭素の形で戻すと100年たっても6~7割は土壌に残り、土壌改良にもなる」と言う。

 一方、もみ殻と並び、稲わらの活用法も課題となっている。国内では年間約750万トンの稲わらが排出され、うち650万トンが農地にすき込まれて肥料となっている。しかしメタンガスを大量発生させており、脱炭素化の阻害要因となっている。

 このため大手農機メーカー「クボタ」は22年度から8年間にわたる環境省の実証実験に着手。大潟村で採集する稲わらからバイオガスなどのバイオ燃料やバイオ液肥を製造し、地域で利用する仕組みの構築を目指している。

 村内では村などが出資する企業がメガソーラー(大規模太陽光発電)も稼働中。太陽光発電だけで村内1100世帯中、350世帯分をカバーできるほどの規模だという。国が目標とする50年までの「カーボンニュートラル(二酸化炭素排出の実質ゼロ)」に向け、取り組みを進めている。

村長「サムソ島より効率的に」

 大潟村のバイオマス都市構想について、高橋浩人村長に聞いた。

 ――構想の出発点はどこでしょうか。

 ◆大潟村はもみ殻を使い切れていない。その解決策の一つとして、もみ殻によるバイオマス熱供給を構想した。モデルはデンマークのサムソ島。再エネ先進国のデンマークの中でも、その取り組みが先行している。人口約3800人で農業が主産業と、大潟村と似ており、10年以上前から興味を持ち、視察したりしてきた。

 ◆デンマークでは麦わらを燃料としていたので、あちらのボイラーで燃焼実験したところ、もみ殻でも十分な熱供給力があり、燻炭(くんたん)として再利用できるという見通しも立った。

 ――つい先日、サムソ島を訪問したそうですね。

 ◆前段として、今年7月にサムソ島のNPO「サムソ・エネルギー・アカデミー」と在日本デンマーク大使館、大潟村が出資して村内の再エネ事業を手がける地域エネルギー会社「オーリス」、それと村の4者が脱炭素化に関するパートナーシップ協定を結んだ。それに続いて11月上旬にデンマークを訪れ、サムソ市(サムソ島全域)と脱炭素化に関する友好都市提携の覚書を交わした。再エネに関する知見を共有したい。

 ――訪問で感じたことを教えてください。

 ◆島内にはボイラーが4基あったが、住宅地が分散しているのに問題なく熱供給ができていた。大潟村の場合は住宅地がコンパクトに固まっているので、より効率がいいはずだ。第1段階は公共施設が中心になるが、将来的には各家庭への熱供給も考えたい。これまでは外から石油を買っていたが、今後は地域内で経済と資源の循環を図っていきたい。

秋田県大潟村

 新田開発による食糧増産を目的に、琵琶湖に次いで日本第2の湖だった八郎潟を干拓、造成して1964年に誕生した村。面積は約170平方キロ、人口約3000人。居住区や行政施設は南北3キロ、東西2キロのエリアに集中。人口の8割が専業コメ農家で、1戸当たり平均18ヘクタールを営農している。

サムソ島

 デンマークの首都コペンハーゲンの西約100キロにある面積約114平方キロ、人口約3800人の島。原発廃止を決めた政府が自然エネルギーアイランド計画を策定し、1997年に社会実証実験のモデル地域に選定。住民らがエネルギー計画づくりに参加し、プロジェクトに投資するなど、10年をかけて島の消費電力を上回る風力発電と太陽光発電、バイオマスを活用した地域熱供給システムが整備された。

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