2023.12.14
小学生がバングラデシュ訪問 路上生活の子どもが過ごす施設へ 「小さなロッカーがもたらす安心感」
知って伝えることが、大きな力になる――。東京都の小学6年、落合碧さんと島根県の高校2年、松元夏和さんが、認定NPO法人「国境なき子どもたち」(東京都新宿区)の「友情のレポーター」に選ばれ、8月にバングラデシュを訪問しました。水泳でオリンピックを目指しているという落合さん。スラム街や、路上生活をしている子どもの休憩施設などで過ごし、現地で暮らす子どもたちに取材もしました。落合さんが書いたリポートの一部をお届けします。
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空港から車に乗り道路に出た。一番印象に残ったのは、クラクションの音だ。クラクションはずっと鳴りっぱなし。まるでクラクションの大合唱だった。日本ではクラクションは、危険を知らせるために使うが、バングラデシュでは危険を知らせるためではなく、自分の存在を知らせるために使われていた。
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スラム街にも行った。たくさんの人が住んでいた。私の行ったスラム街は、約8畳の部屋が240室ある場所だった。井戸が一つしかなく共同で使っている。シャワーやトイレも共同で使っている。
たくさんの人が使うので掃除が追いついていないのか、井戸、シャワー、トイレの周りは他よりも強烈な匂いがした。インタビューをした家には、7人が住んでいた。家は1階と2階があり、1階は約8畳あった。
【家族構成】・長女(ビーティー)19歳・ビーティーの息子(アラファット)10ヶ月・次女(スレーヤ)16歳・三女(ボルーナ)14歳・母・父・兄
――まだ学校には行っていますか?
◆スレーヤとボルーナは、まだ学校に行っている。ビーティーは、5年生で学校をやめた。
※バングラデシュの初等教育は1~5年――学校の時間はどのくらい?
◆午前8時から、午前10時半まで。――夏休みはあるの?
◆いつもは、5月〜6月が夏休み。
※今年は、デング熱の流行と12月にある選挙のために夏休みは中止――いつも誰と遊んでいるの?
◆兄弟や、近所の人と話している。
バングラデシュでは子どもが生まれたら、近くの家の人達全員で育てているようだった。だからお母さんが困ったら、近所の人が助けてくれていた。私は、このシステムをすごくいいなと思った。困った時に助けをすぐに呼べる環境だとお母さんも楽だと思うからだ。
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「ほほえみドロップインセンター」にも行った。2011年から「国境なき子どもたち」がバングラデシュの首都、ダッカで運営している施設だ。路上で生活している子ども(ストリートチルドレン)が無料でご飯を食べたり休息したり教育を受けられる。
中に入ると、約20人の子どもたちがいた。遊んでいる子もいる。一人の子と目が合った。手を振ると、手を振り返してくれた。温かく優しい気持ちになった。バングラデシュの街では、歩いているとたくさんの人が手を振ってくれた。それがうれしかったから私もいろんな人に手を振るようになった。日本に戻ったら、少し恥ずかしいけど外国の人に、自分から手を振ってみようと思った。
「ほほえみドロップインセンター」の中には約40個のロッカーがあった。このロッカーに子どもたちの私物を入れる。路上で生活していると、自分の稼いだお金や服を置ける場所がない。誰かにとられるかもしれないという状況は不安がつきまとう。たった一つの小さなロッカーがもたらす安心感は、多分すごく大きい。
次に、休息をとる部屋を見た。何も物がなく暗く静かな部屋だった。まるで引っ越したばかりのようだ。10人くらいが床で寝ていた。寝ている子に私が近づいても、全く動かないほど熟睡していた。子どもたちは、たとえ夜でも路上だから、安心して眠ることは出来ない。だから日中に安全な「ほほえみドロップインセンター」で眠っているんだと思う。子どもたちが唯一安心して眠れる場所が、この部屋なのかと思うと、なぜだか心がザワザワした。
施設を一通り見終えると、ついに子どもたちとの時間がやってきた。遠い日本のことを少しでも知って楽しんでもらえるように、私はラジオ体操を披露して、みんなとやりたいと思い準備をしてきた。私がラジオ体操を披露すると、みんな最初は不思議そうな顔をしていた。でもラジオ体操のコミカルな動きもあり、段々と笑顔が広がり、楽しそうに一緒にやってくれた。
ラジオ体操が終わると、今度は「ほほえみドロップインセンター」の子どもたちが、バングラデシュで有名な歌や、自分たちで作った歌、踊りを見せてくれた。カエルの歌くらいのゆっくりとしたテンポで、踊りは円になって身体を上下させながら回る不思議な踊りだった。言葉は当然分からないけど、すごく楽しい時間だったし、自分たちのために用意してくれたことがすごく嬉しかった。
それから、「ほほえみドロップインセンター」の子が描いた絵をもらった。男の人が片手に銃、もう片方の手にバングラデシュの国旗を持って川や林の中で笑っている絵だ。どんな意味の絵なのか見ただけでは分からなかった。絵を描いてくれた子は、今日はいなかったから、何を表現しているのか聞けなかった。いつかこの絵を描いてくれた子に会って、この絵の意味を聞いてみたい。
私たちが交流したあとは、健康や衛生についてのレクチャーがあった。終わった後、7歳くらいの男の子がニコニコしながらやって来た。男の子は、私が持っていたメモ帳をトントンしていた。何を言いたいのか分からなかった。だけど、男の子が一生懸命ジェスチャーで自分の言いたいことを説明してくれたから、段々と分かってきた。サインを書いて欲しいのだと。
私の名前を、漢字と英語で書いて渡してあげると、たくさんの子どもたちが集まってきた。みんなサインが欲しくて集まってきたんだ。30人くらいの子どもたちにサインを書いた。有名人になった気分だ。みんなサインをもらって喜んでくれた。たくさんサインを書いたから疲れたけど、子どもたちの嬉しそうな顔は、私のことも嬉しくさせた。
サインを書いたあとに、女の子たちと一緒にボードゲームをした。最初はルールが分からなかったけど、ジェスチャーで一生懸命教えてくれた。ルールが分かるようになってきて、楽しくなった。お互いに伝えたい、知りたいという気持ちがあれば言葉が通じなくてもコミュニケーションがとれるんだなと感じた。だけど、言葉が分かったらもっともっといろんな話ができるのに。もどかしい気持ちだった。
お昼ご飯の時間になった。みんなお昼ご飯の準備(ご飯を運んだり、テーブルを持ってきたり)を手伝っていた。45人分くらいの大量のご飯だ。メニューは、お米、魚カレー、ニンジンといんげん豆とジャガイモのカレー。私より小さい子も食べるご飯なのだから、そこまで辛くないはずと期待していたのだが、一口食べるとすごく辛かった。
12歳の男の子、アブドラくんにインタビューをした。
――好きな遊びは何?
◆カランボード
※四角いボードの4つの角に穴が空いていて、3センチくらいの丸く平たいプレートを、一回り大きいプレートで打って穴に入れるゲーム――何の仕事をしているの?
◆港で水を売っている。――毎日どのくらい稼ぐの?
◆1日300〜400タカ
※日本円でいうと、約390円〜520円。一日に何時間も働いているのに、日本の最低賃金の時給の半分以下しかもらえていない
――稼いだお金は何に使うの?
◆半分は食事に使い、もう半分はオーナーさんに預ける。――夜はどこで寝てるの?
◆ショドルガットのターミナルで寝ている。
――ターミナルで寝ていて音などで不快に思うことはある?
◆特に気にならない。
※私は音がうるさいと全然眠れないのに!慣れてしまっているのかな
――学校には通っている?
◆7〜8年学校に通っていない。――何で学校に行かないの?
◆学校に行きたくないから――何で路上生活になったの?
◆父がなくなり兄と暮らしていた時に、兄から暴力を受けていてそれが嫌で家を出た。――路上生活をしている中で何か困っていることはある?
◆もう慣れたから困ってることはない。
※慣れているということは、はじめはきっと沢山困っていたはず。慣れないと、生きていけなかったんだろう
――将来の夢はなに?
◆考え中
アブドラくんは、私の質問に全部答えてくれた。でも、質問をしている時はずっと下を向いていた。嫌な気持ちにさせているのではないかと私は不安になって、もっと色々聞きたかったけど言葉を飲み込んでしまった。
※公立小学校で配布される「こども新聞・ふゆ号」(2023年12月発行)に掲載された記事を再編集しました。落合さんと松元さんが書いた記事の全文は、「国境なき子どもたち」のホームページで読むことができます。「国境なき子どもたち」では毎年、「友情のレポーター」を募集しています。