2023.12.16
大雨被害で…重要文化的景観「やめたいのが本心」復旧で問題噴出
7月の大雨で大きな被害を受けた国の重要文化的景観、小鹿田(おんた)焼の里(大分県日田市)の復旧などを巡り、窯元ら地域住民でつくる「小鹿田焼の里景観保存会(坂本浩二会長)」が13日夜、経過報告会を初めて開いた。参加者からは「単に景観を戻すだけでは被災を繰り返すだけ」などの課題が指摘された上、景観を守っても地元に利益がないことから「やめたいのが本心」との意見が出るなど多くの問題が噴出した。
報告会には、窯元や市が設立した小鹿田焼の里景観委員会の藤原恵洋委員長(九州大名誉教授)や住民ら約20人が出席した。
文化的景観は、池ノ鶴地区の石積みの棚田と皿山地区の窯元などで構成。7月の大雨では、池ノ鶴の農地104カ所中87カ所に土砂が流入するなどし、石積みも135カ所中63カ所が崩れるなどした。
池ノ鶴の農地を所有する木下浩和さん(55)は今回、災害復旧申請を見送った。理由について「上流部に危険要因が多く潜んでおり、単に原形復旧では被災を繰り返すことになる」と指摘。木下さん自身は兼業農家で、担い手不足から地元で農業を続けるのが難しい現状にも触れた。
一方、皿山では窯元の1軒が過去に作業場を改築する際、市の担当課が「景観の形成基準などを守るには自由に改築できない」など誤った指導をしたため、金銭的な補償問題に発展するなど行政への不信感が高まる事態が起きている。
一連の状況について坂本会長らが報告した後、住民らが意見を述べたが、「住民が集まる場が少ない」や「文化的景観をやめたいのが本心」などの声が上がった。
これに対し、藤原委員長は「重要文化的景観は変化を受け入れられる。仲間を増やす営農を取り入れる時期ではないか」と提案。また、景観の維持をやめたいと訴える住民らに寄り添う発言もした。
坂本会長は報告会後、報道陣の取材に対し「市が運用する文化的景観では(地元に)メリットがなく、足かせになっている。景観を残すなら市は住民の意見を聞いて、ゼロベースから話をしたい」と述べた。【井土映美】
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