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2023.12.21

脱炭素の「切り札」、合成メタンで都市ガス供給へ 西部ガスなど

 西部ガス(福岡市)などは、燃やしても二酸化炭素(CO2)排出が「実質ゼロ」の合成メタンを用いた都市ガス供給に乗り出す。工場などから出るCO2を回収して合成するメタンが主成分で、燃焼時の排出と相殺する計画。ガスで火を使う企業にとってCO2排出は避けられず、合成メタンの実用化で企業の脱炭素化につなげるのが狙い。2025年にも一部企業に供給する。【久野洋】

 水素とCO2から天然ガスの主成分と同じメタンを合成する「メタネーション」の技術を応用する。工場などから大気中に排出されるCO2を回収して使うことで、燃焼時のCO2排出を相殺するとみなす。水素は太陽光発電など再生可能エネルギー由来の電力で水を分解してつくる。

 従来の都市ガスと同じ導管や機器を使用できるため、合成メタンは脱炭素化の切り札として都市ガス業界が実用化を急いでいる。大阪ガスはエネオスと組んで30年までに年6000万立方メートルの製造を目指す。東京ガスなどは三菱商事と、米国でメタンを合成して輸入する計画を進める。

 ただし、現状は合成メタンの価格が天然ガスよりも高額で、合成メタンのコスト削減のために安価な水素が必要となる。工場などからのCO2の安定調達も欠かせない。

 西部ガスは九州大や大手機械メーカーのIHIと23年12月から2年間の実証事業に取り組む。環境省の補助金など6億8000万円を活用し、技術開発やプラント整備を進める。水素をつくる電力は、九州で盛んな太陽光発電の余剰電力を活用するほか、化学メーカーの工場から副産物として出る水素を調達し、コストを抑える。CO2は工場の排ガスなどから回収する。合成メタンは西部ガスの「ひびきLNG基地」(北九州市)で製造し、25年7月からガス導管に注入し、一部企業への供給を始める。

 西部ガスは実証事業を経て、30年に合成メタンの商用化を目指している。担当する稲盛日出美執行役員は「カーボンニュートラルに向けて都市ガスが生き残る道で、顧客からの期待も高い」と意気込みを語る。

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