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2023.12.22

コウノトリと共生する豊かな暮らしを 巣塔など整備進む 広島

 国の特別天然記念物、コウノトリ(野生)が絶滅後、広島県内で初めて繁殖した世羅町で、コウノトリとの共生を目指す機運が高まっている。繁殖の拠点となる常設の人工巣塔が年明けにも設置される見通しで、コウノトリへの理解を深める集いも開かれた。【渕脇直樹】

 世羅町では2月、兵庫県豊岡市生まれのつがいが電柱の上に営巣。4月に産卵し、5月に雄2羽、雌1羽の計3羽がふ化した。町は地元の子供たちから愛称を募り、羅々(らら)、喜羅(きら)、希羅里(きらり)と命名。3羽は順調に育ち、7月に巣立った。

 営巣中、巣の周辺には連日多くの見物客が訪れ、カエルやヘビなど餌をくわえて巣に戻る親鳥や、じゃれあう幼鳥を観察していた。町立にしおおた保育所はオリジナル曲「しあわせ♡コウノトリ」を作って2世の健やかな成長を願った。世羅はブームに沸いた。

里山の自然、見つめ直そう

 町内での繁殖を契機に里山の豊かな自然を見つめ直し、持続可能な地域づくりにつなげようと、町民有志や三原野鳥の会、町などは「コウノトリ保全地域協議会」(竹内政彦会長)を9月に設立。11月23日にコウノトリと自然の関わりを学ぶ「コウノトリの集い」を町内で開いた。

 町民ら約200人が参加し、保護団体メンバーの講演やシンポジウムに耳を傾けた。官民を挙げて繁殖に取り組む豊岡市の坂本成彦コウノトリ共生部長は基調講演で、農薬や化学肥料を極力使わず冬も田んぼに水を張る「コウノトリ育む農法」や、放置された休耕田を餌場となる湿地に整備する取り組みが広がっていると報告。「コウノトリがすみやすい環境は人の暮らしも豊かにする」と話し、人とコウノトリが共生する意義を説いた。

 協議会は、継続して繁殖できる環境整備として、人工巣塔を2024年1月末までに町内に設置する計画だ。人工巣塔は北陸や中国地方などで設置され、鳥取市や島根県雲南市など各地で繁殖が報告されている。

 協議会は世羅でも同様の成果を期待する。先進事例を参考に、3羽が巣立った地区付近に高さ約16メートル、直径約2メートルの巣塔を設置する計画で、設置費用70万円は町が負担する。

 コウノトリは翼を広げた長さが約2メートルの大型鳥類で、カエルやヘビ、魚など1日に約500グラム食べるとされる。そのため繁殖には多くの生き物が生息する豊かな自然環境が不可欠だ。

「大食漢」を温かく迎え入れるために

 大食漢のコウノトリに繁殖地として世羅を選んでもらうため、自然をどう維持していくのか。竹内会長は「コウノトリ定着に向け、地域の人々が温かく迎えてくれる機運を高めていきたい」と話し、奥田正和町長は「コウノトリは世羅の豊かな自然環境を改めて教えてくれた。この自然を町民と未来につなげていきたい」と話している。

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 せら夢公園(世羅町黒渕)はコウノトリを目撃した場合、場所や日時などの情報を提供するよう呼びかけている。電話0847・25・4400。

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