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2024.01.07

わずか1分で津波到達 日本海側の防災の難しさ露呈 能登半島地震

 能登半島の沿岸には1日、最大震度7の地震が発生した直後に津波が押し寄せた。住民は、津波の高さや、到達時刻の早さに驚きを隠せない。太平洋側で発生する海溝型地震と違い、避難する時間が極めて短い、日本海側の津波防災の難しさが露呈した。

 「東日本大震災の津波が『重いパンチ』なら、今回の津波は『鋭く速いジャブのようなパンチ』だ」

 東北大の今村文彦教授(津波工学)は、能登半島地震の津波をこう例える。

 今村さんらのチームは、国土地理院などの断層データをもとに、能登半島地震の津波をシミュレーションした。すると、地震発生から第1波が到達するまでの時間は、石川県珠洲市と輪島市で1分以内▽七尾市で2分以内▽富山市で5分以内▽新潟県上越市で12分以内――と推定され、非常に早かった。

 特徴の一つが、津波の周期が短いことだ。今村さんによると、今回の津波は10分程度で、東日本大震災(20分~1時間)より短い。このため第1波を過ぎても、同じような津波が次々に押し寄せてくる。

 これは、プレート境界の深い場所で起こる海溝型地震が太平洋側で多いのに対し、日本海側では、浅い場所で活断層がずれる内陸型地震が多く、メカニズムに違いがあるためだ。

 さらに、日本海は対岸に大陸があり、沿岸が遠浅になっている。このため、大陸や海底地形で津波が跳ね返って繰り返され、津波高が高くなる傾向があるという。

 チームが航空写真を分析したところ、津波高は珠洲市や能登町で約4メートルに達した可能性があることもわかった。この地域はリアス式海岸で小さな湾もあり、津波が集まりやすくなっている。さらに能登半島の東側の海底は浅くなっており、津波が浅瀬で屈折し、珠洲市の方向に津波が集中したとみられる。今村さんは「津波高が7~8メートルに達した可能性もある」とみる。

 2014年に政府がまとめた日本海側の大規模地震に関する報告書によると、日本海側では比較的浅い領域で地震が発生し、津波を起こす海底の上下変動が大きくなって津波が高くなる傾向にある。震源の断層が沿岸に近いため、津波が早く到達する。マグニチュード(M)7級の地震であっても、大津波の危険性があると指摘している。

 今回の地震も震源の深さが16キロと浅く、断層も沿岸部に近い。「日本海側の典型的な津波の特徴を表している」と今村さんは指摘する。

 その上で「津波の到達が早く、避難時間が非常に限られていた。沿岸部に緊急避難場所となる津波タワーなどを備えなければ、避難はなかなか難しい」と話す。

 東京大大学院の関谷直也教授(災害情報論)も「日本海側の地震津波は、大津波警報を待っていてはいけないほどの早さでやってくる。誰かを助けに行くのは非常に難しい」と警鐘を鳴らす。

 関谷さんの過去の調査では、太平洋側の住民に比べて日本海側の住民の方が地震津波への意識が低い傾向にある。東日本大震災や南海トラフ地震など、太平洋側の巨大な海溝型地震が注目されがちなことが要因の一つという。

 だが、日本海側でも大津波を引き起こす地震は起きている。津波で100人が死亡した1983年の日本海中部地震(M7・7)や、奥尻島に壊滅的な被害をもたらした93年の北海道南西沖地震(M7・8)などだ。いずれも震源が沿岸に近く、到達の早さが指摘された。

 関谷さんは「日本海側は頻度は少ないものの、場所を変えて度々大きな地震が起こっている。津波の特徴は地域によって異なり、避難行動や救助のあり方が変わることを意識する必要がある」と指摘する。【山口智】

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