ソーシャルアクションラボ

2024.01.14

離れていても役立てる 研究者が編み出した「#文化財防災」

 能登半島地震で、文化財も深刻な被害を受けた。文化庁などが12日から現地調査を始めたが、災害現場では人命救助や生活インフラの復旧が優先され、歴史的な建造物や博物館の収蔵品など被害の全容はつかめていない。

 そんな中、個人的にSNS(ネット交流サービス)を使い、被災した文化財の情報を収集・整理している文化財研究者がいる。遠隔地でもできる文化財保護の初動対応として注目を集めそうだ。

 「現地に行くことが困難でも、デジタルの世界であれば貢献できることがある」。奈良文化財研究所(奈良市)の高田(たかた)祐一・主任研究員(40)はそう力を込める。

被害状況の記録 集めて再投稿

 高田さんはデジタル技術を使った文化財情報活用の研究者だ。1日は帰省中で、車のラジオで地震発生を知った。目的地に着いてスマートフォンでX(ツイッター)を開くと、崩れた石垣や、倒壊した建物、鳥居などの画像や動画がたくさん見つかった。

 「発生直後の状況を記録しておくことは、今後の復興や防災対策には重要。でも道を塞いだ石造物などは、すぐに撤去する必要がある。SNSも、放っておけば新しい情報に埋もれてしまい、後から探すのは大変な手間になる」

 検索をしやすくするため、高田さんは被災した文化財に関する投稿に「文化財防災」というハッシュタグをつけ、自身のXのアカウント(@archaeology_arc)で再投稿を繰り返した。国や自治体の指定がない文化財も作業の対象にした。

初動対応 代行の意味合いも

 SNSの情報はいずれも断片的だったため、できるだけ複数の投稿を照合し、正確性を高めた。地図サイトや文化財の報告書で場所を特定。その結果を表計算ソフトで一覧表として整理した。1日の段階で21件、3日で55件、9日で104件の情報をまとめ、高田さんのXのアカウントや個人のホームページで公開した。一覧表は、12日までに300回以上ダウンロードされたという。

 被災地では、自治体の文化財担当者は、学校などで避難所の運営に奔走することが多く、初動対応を代行する意味合いもある。高田さんは「地元の職員が文化財の対応ができるようになった段階で、情報が整理されていれば動きやすいはずだ」と期待する。

 12日には金沢城(金沢市)に文化庁の調査官が入るなど、文化財の現地調査は本格化している。ただ、対象は国や自治体の指定を受けた文化財が中心となる。高田さんは「指定を受けていなくても、地域文化のよりどころであれば、文化財としての価値がある。復興を進める上でも、精神的な支えになり得る」と重要性を指摘する。

小6で経験した阪神大震災

 高田さん自身、小学6年の時に阪神大震災を経験した。神戸市西区にあった自宅は無事だったが、長田区の親族宅は全壊し、焼け野原のようになった光景は今も目に焼き付く。「被災地のために何かしたいと感じた人は多いはず。文化財は専門家ではなく市民のもの。9割の人がスマホを持っている時代に、情報収集や記録、発信という方法で誰もが力になれる」と語った。【花澤茂人】

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