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2024.01.23

のり生産「絶対王者」の佐賀を抜き兵庫が日本一 瀬戸内海の恵み

 兵庫が誇るプロ野球・阪神タイガースが昨年、38年ぶりに達成した「アレ」の「アレ」。そう、それはあっぱれめでたい「日本一」。兵庫県内をつぶさに見れば、あるわあるわ「日本一」が。再び頂点を極める願いを込めて、どこにも負けない兵庫の奥深さを探す旅に出かけよう。

 神戸市西部から西播地域、淡路島の沿岸に広がるのり養殖地。全国漁連のり事業推進協議会によると、兵庫県は2022年度に19年連続1位だった絶対王者の佐賀県を抜き、生産量日本一になった。約12億8223万枚を生産し、有明海が不漁だった佐賀を約3億7400万枚上回った。

 元々、有明海のような遠浅の海で、干満を利用して養殖していたが、1970年代にのり網を浮遊させる「浮き流し式」が開発され、瀬戸内海でも生産が広がった。

 明石市の東二見漁業協同組合では、タコやタイの底引き網漁の漁師が冬から春にのりを収穫する。明石海峡の速い潮流にもまれ、河川からミネラルが豊富な水が注ぐので、繊維が丈夫で味の濃いのりが採れる。巻きずしに使われるのりの多くが明石産だという。

 のり養殖は重労働だ。9月ごろに養殖場にブイを設置し、10月ごろにタネをつけた網を張り、海上に持ち上げて乾かす乾湿という作業を20日間ほど繰り返す。その後、網を回収し、水温が下がる11月下旬、再び海に網を張って苗を育てる。若い芽が伸びると、夜明け前からもぐり船で刈り取る。約10日でまた新しい芽が育ち、4月ごろまで収穫できる。陸揚げ後、藻などを取り除き、乾燥、加工する作業が昼夜を問わず続く。

 2023年は暖冬のため、12月下旬に収穫が始まった。東二見漁港に面した漁師の大西絢太(けんた)さん(32)の加工場では高級品の新芽を使ったのりが次々に仕上がっていた。寒波による水温低下がプラスとなり「色が深く、つやがある」と満足そうだ。

 品質に大きく影響するのが海の栄養分だ。瀬戸内海は工場排水の浄化や河川の護岸のコンクリート化で、水質の貧栄養化が進み、のりの色落ちの一因に。県内の漁協は、生育環境を守ろうと、海底を器具でかき混ぜて地中の栄養分を放出する「海底耕運」やため池の水を抜き、泥を海に放出する「かいぼり」に取り組んでいる。

 国内有数の生産地だが、後継者不足は深刻で、同漁協の生産者は四十数人と約30年前の半数に。副組合長の西尾幸洋さん(57)は「祖父のころは『軽トラックいっぱい取ると、家が建つ』といわれていた。今は単価が安く経費ばかりかかって割に合わない」と話す。乾燥に使う重油や資材が高騰。韓国産など安価な輸入のりも強力なライバルになっている。

 父の後を継いだ大西さんは「将来は複数の漁師による共同経営など、少ない後継者で生産を維持する仕組みを考えていかないと」と話す。【山本真也】

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