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2024.02.01

恵方巻き、売れ残りは推計256万本 節分に考える食品ロス問題

 まもなく節分。スーパーやコンビニに恵方巻きが並ぶ季節だ。全国ですっかり定着した商品だが、とんでもない本数が売れ残って捨てられてきたようだ。恵方巻きを含む「食品ロス」は年500万トン超。今年はロスを減らすことができるのか。

購入は節分当日に集中

 総務省家計調査によると、昨年の節分(2月3日)に恵方巻きを含む持ち帰り用すしに支出した金額は1世帯(2人以上)当たり717・73円。その前後は数十円で、節分当日に購入する家庭がいかに多いか分かる。

 一方で、販売側が準備する本数も増え、売れ残って大量廃棄される問題も指摘されてきた。

 まだ食べられるのに捨てられる「食品ロス」問題の専門家で、ジャーナリストの井出留美さんは昨年、大学生らと一緒に節分の夜から翌日未明にかけて恵方巻きの販売状況を調査した。

売れ残りは推計256万本

 首都圏と西日本の1都4県のコンビニやスーパー計45店舗を対象に調べると、閉店時間までに平均32本が売れ残っていた。全国で同じ傾向だと仮定すると、売れ残りは約256万本と推計されるという。

 井出さんは「消費期限が短い商品であることもロスが多くなる背景にある。大手コンビニ本部は予約販売が中心とアピールするが、コンビニ独自の会計制度により店舗で廃棄が出ても本部に損失は生じない。『結果的に廃棄になっても当日たくさん売ろう』と発注する店舗オーナーもいる」と見る。

「必ず予約」まだ根付かず

 帝国データバンクによると、23年の一般的な恵方巻きの平均価格は1本898円、豪華な海鮮恵方巻きは同1633円と、食材価格の高騰を受けていずれも前年より上昇した。「それでもクリスマスケーキやおせち料理と比べて単価が低く、しかも必ず予約して食べるという習慣が根付いているとまでは言えない。店頭で見かけたら、値引きされていたら買おうかという消費者が多い」(井出さん)。

 食品ロス削減推進法が19年10月に施行され、政府は19年の節分から毎年小売業者に予約販売の徹底や廃棄削減などを呼びかけてきた。

 大手コンビニのローソンは廃棄量削減の一環として、昨年から通常商品を製造する過程で出る端材や、規格外食材を使用した「もったいない恵方巻き」を販売している。今年は関東1都3県で、アプリ予約限定商品として規格外の穴子を使った商品を用意した(予約は終了)。

 こうした小売業者の取り組みは進みつつあるものの、全体の予約率は1割に満たないという消費者へのアンケート結果もある。予約が定着しなければ、製造・販売側は買い手がいるのに売り切れてしまうことを避けようと多めに準備することになる。

リサイクルせず廃棄されがちなケースも

 食品リサイクル会社「日本フードエコロジーセンター」(相模原市)は、食品加工工場や小売店など約180事業者から余剰食品を受け入れて豚の飼料に加工している。同社によると、23年節分シーズンの受け入れ量は約5トン。食品ロス問題が注目されるようになった19年ごろをピークに減少しつつある。食材費の高騰や処分にかかるコスト削減なども影響しているという。

 ただし、小売店や飲食店の場合、処理費用の一部を市町村が負担し、事業者が支払う金額がリサイクル費用より安くなる地域ではごみとして廃棄されがちだという。同社の担当者は「食品ロスや廃棄物をリサイクルさせようというのは意欲ある事業者だけになりかねない。社会が食品ロス問題を自分のこととして捉えて減らす取り組みに本気になるためにも、実態を知ってもらいたい」と話す。

需給のミスマッチ解消がカギ

 食品ロスは節分に限らない通年の問題だ。国の推計によると、21年度の食品ロス量は523万トン。このうち、食品製造業や小売り、外食などの事業系が279万トンに上る。政府は「30年度までに00年度比半減(年489万トン)」という目標を掲げるが、21年度は前年度より1万トン増えてしまった。

 食品ロスを減らす有効な手段として期待されるのが、人工知能(AI)などを活用した需給のミスマッチを減らす取り組みだ。日本気象協会(JWA)は、気象や販売のビッグデータの解析を通じた商品の需要予測提供に取り組んでいる。

需要予測で「攻め」の効果も

 冷やし中華のつゆなどの季節商品の終売時期の見極めや、消費期限が数日と短い豆腐メーカーに気温の上下で変動する需要指数の提供により豆腐のロスを3割削減するなど、食品系以外にも100以上の企業で取り入れられている。昨年11月からは、東海地域で食品スーパー237店舗を展開する「マックスバリュ東海」に、予測の難しい野菜・果物の発注量を提案するサービスを始めた。

 22年10~11月に行った実証実験では、廃棄分を売り切った場合の金額を5・7%減らすことができた。ロス削減という「守り」に加え、急に寒くなったときには鍋商材を積極的に展開し、白菜の売り上げが前週比69%増と「攻め」の成果もあがった。

 JWA担当者は「科学的データを活用することでミスマッチを解消し、消費者のニーズを先取りすることもできる」と話す。

温暖化への影響、経済損失も大きく

 食品ロスによる環境負荷も無視できない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、生産・輸送を含めた世界の食料システムからの温室効果ガス排出量は、人為起源の総排出量(07~16年の平均)の21~37%を占めるとされる。日本では、食品ロス関連の年間排出量は全体の1・2%相当、経済損失は国民1人あたり年間3万6000円相当と試算する研究もある。

 削減には販売側だけではなく、消費者の意識改革、行動変容も求められる。消費者庁は節分を前に、ウェブサイトで「購入を考えている方は予約販売の活用検討を。予約しないで直接店舗で購入する場合は商品の品切れの可能性があるが、お店側の状況を受け入れよう」などと呼びかけている。【三股智子】

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