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2024.02.23

独自の遺伝子持つ奈良公園のシカ、市外のシカと交配進む DNA解析

 福島大などの研究チームは21日、奈良市内に生息するニホンジカのDNAを解析した調査結果を発表した。奈良公園から約5キロ以上離れた場所では、京都府南部など元々は市外にいた鹿が移ってきていることが判明。他の地域では見られない独自の遺伝的特徴を持つ奈良公園の鹿との交配が進んでいた。成果は米学術誌に掲載された。

 「奈良のシカ」は1957年に天然記念物に指定。駆除は原則禁じられ、捕獲にも文化庁の許可が必要になった。その後、県が奈良公園付近から円を描くように四つのゾーンを設定。保護が必要なエリアと、一定の条件で駆除を認めるゾーンに分けて生息状況を管理している。

 チームは、2017~19年に採取された鹿167頭分の筋肉と糞からDNAを抽出。2種類の方法で血縁関係や遺伝的特徴を解析した。

 このうち奈良公園一帯の「保護地区」(重点地区含む)に生息する鹿には、独自の遺伝的特徴が見られた。春日大社にまつわる神鹿として1000年以上前から保護されてきた経緯などがあり、周囲から孤立した生息環境が保たれてきたことが要因と考えられるという。

 しかし、公園から離れた郊外の「管理地区」を見ると、奈良公園から約10~14キロ離れた場所では京都府や三重県などから移動してきた鹿とその子孫が大半を占めた。公園から約5~10キロ離れ、保護地区と管理地区の境目に当たる「緩衝地区」近くでは保護地区と市外由来の鹿が混在し、交配が進んでいた。

 チームの兼子伸吾・福島大准教授(45)=分子生態学=は「奈良のシカの遺伝的特徴を維持してきた孤立的な環境が失われている」と指摘する。

 奈良市内では鹿による農業被害が多発している。23年には緩衝地区で農作物を荒らし、保護施設「鹿苑(ろくえん)」(奈良市)の特別柵に収容された鹿を巡り、飼育環境のあり方が問われた。

 兼子准教授は「長期的な保護のあり方を議論する上で、研究成果を土台にしてほしい」と話している。

 研究論文は(https://doi.org/10.1111/csp2.13084)で読むことができる。【上野宏人】

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