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2024.03.08

台風被災の温泉旅館1年半ぶり再開 能登にエール「諦めないで」

 2022年9月の台風15号で被災し、休業が続いていた静岡市葵区の温泉旅館「油山温泉油山苑」が3日、約1年半ぶりに宿泊営業を再開した。災害ボランティアやクラウドファンディング(CF)の支援者に支えられ、家族経営の旅館として新たな一歩を踏み出した。専務の大塚祐史さん(62)は「諦めなければ復興できるんだと、(地震被害を受けた)能登の人々の希望になればうれしい」と話す。【皆川真仁】

 油山苑は「オクシズ」と呼ばれる静岡市の中山間地域で、1966年に創業。2022年9月24日未明に、近くの油山川が氾濫して大量の土砂が旅館の1階部分に流れ込んだ。宿泊客に被害はなかったが、休業が続いていた。

 被災後は、連日20人以上のボランティアが泥のかき出しに汗を流した。23年5月から実施したCFには目標を超える565万円が集まった。多くの人々に支えられながら建物を修復し、六曜の「大安」にあたる今月3日に宿泊営業を再開した。

 改装後は1階部分をカウンターと大テーブルを置いたオープンキッチンにした。客室は被災前の10室から4室に減らし、いずれも2階に配置。被災の経験から、緊急時の迅速な対応を考えて設計した。キッチンでは、地元食材を使った和食を提供する。大塚さんは「お客様の反応を見ながら料理を出せるようになって楽しい。家族3人で、細かく目の届くようなサービスができれば」と話す。

 6月には、県が工事を進める油山川上流の砂防ダムも完成する予定だ。復興が進むにつれて、被災の記憶は薄れてきた。だが、当たり前の日常が突然奪われる恐怖まで忘れてはいない。以前は楽天的だったという大塚さんだが、今は「外に逃げ場がなければすぐに垂直避難をするなど、頭の中でずっと避難のイメージをしている」という。

 元日には能登半島地震が北陸を襲った。甚大な被害をテレビで目の当たりにし、「やはり災害には勝てない」と改めて実感した。それでも、被災経験者として伝えたい思いがある。「能登と災害の規模は全く違うが、諦めなければ形はどうあれ復興できる。私たちも、復興に向けて頑張ってきた人たちの話をボランティアから聞いて頑張ろうと思えたので、営業再開が少しでも能登の人たちの希望になればうれしい」

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