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2024.03.09

「砂糖王国」がピンチ てん菜の作付け減少の一途 回復の道筋は

 てん菜(ビート)を原料にした国内産砂糖の生産量が急速に減っている。2023年は前年比2割減の45万5800トンにとどまり、過去最低となる見通しだ。背景にあるのは、健康志向の高まりに伴う「砂糖離れ」と地球温暖化。消費量の減少が農家の生産意欲の低下につながる悪循環を生み、気候変動による病害が拍車をかけている。農業団体はネガティブなイメージの払拭(ふっしょく)や食用以外の用途開発に力を入れている。【片野裕之】

 国内の砂糖の年間消費量は1991年まで250万~260万トンほどだった。しかし、近年は170万トン台で推移する。健康志向が高まる中、「肥満の原因」といったイメージが消費の低迷につながっているとみられる。

 消費量減を受けて、農林水産省は22年、砂糖の減産方針を打ち出した。生産農家らに交付金を支給する「糖価調整制度」の対象枠を26年までに段階的に減らすことを決定し、加工用ジャガイモなどの「需要がある作物」の生産拡大を求めている。

 国内で消費されている砂糖の4割が国産。うち8割の原料が北海道のみでつくられているてん菜だ。鹿児島県や沖縄県のサトウキビよりも圧倒的に多い。ただし、生産農家の高齢化に国の減産方針が重なり、「砂糖王国」でてん菜の作付面積は減少の一途をたどっている。

 道農業振興課によると、23年のてん菜の作付面積は5万1080ヘクタールで、前年から約4000ヘクタールの縮小。道内の生産農家からは「肥料が高騰して病害も広がる中、国による消費振興策がない状況。作付けしようと思えなくなってきている」との声が上がる。

 事態を打開しようと、JAグループ北海道が中心となって19年に始めたのが「天下糖一プロジェクト」だ。消費拡大のため、砂糖の正しい知識を普及させようと、SNS(ネット交流サービス)などで情報発信する。

 道内の学校で食育活動も展開。23年12月からは、てん菜と道産の小豆を使ったあんこを道内の公立小中学校などの給食に無償提供している。ホクレンてん菜業務部の高岡健介部長は「『太る』という誤ったイメージが広がっている。北海道で作られていることもあり、正しい知識と魅力を伝えたい」と話す。

 ホクレンが取り組みに力を入れるのは、てん菜が北海道の「輪作体系の要」という背景もある。てん菜の作付けが今後も縮小すれば、道内でほかの作物の生産にまで影響を及ぼしかねないとの懸念も広がっている。

 道内は、てん菜とジャガイモ、小麦、豆類などの4品目で輪作する農家が多い。てん菜を作らなくなると、ほかの作物との栽培間隔が短くなり、病害などが起こりやすくなる。

 父親の代からてん菜を作る帯広市の中村博志さん(61)は2年前に作付けを半減した。このため、豆類の栽培の間隔が短くなった。「今のところはまだ何とかなっている。けれど、これ以上、作付けを減らせば、畑の状態が悪くなりかねない」と危惧する。

 食用とは別の用途を模索し、生産の動機付けにしようとする動きもある。ホクレンと東京大は、砂糖の精製の最終工程で出てほとんど利用されない「廃蜜糖」を航空機のバイオジェット燃料の製造に活用する共同研究を進めている。

 実用化の目標は30年。共同研究に携わるホクレンの吉田拓也さんは「てん菜は道内で多く作られ、ほかの作物と比べて収穫量が圧倒的に多い。未利用の廃蜜糖に資源としての価値が見いだされたら、生産者にとっても非常に魅力的な作物になるだろう」と語った。

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