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2024.03.12

祭りや風景写真… 能登地震で壊れた思い出のデータを修復 富山

 能登半島地震や津波で破損したパソコンや外付けハードディスク(HDD)のデータを、東京の専門業者がボランティアで復旧を試みる事業が3月5~7日、富山県高岡市であった。

 国内最大のデータ復旧実績を誇る「デジタルデータソリューション(DDS)」(本社・東京都港区)と、富山銀行(本店・高岡市)の協力で実現した。DDS社は2011年の東日本大震災以降の大規模災害でも修復事業を実施している。本店に設けられた会場に、クリーンルームの代わりとなるボックスや修理工具を持ち込んだ。期間中に計6件の依頼があり、エンジニア2人が診断と修復に当たった。

 石川県珠洲市のカメラマン、松田咲香(まつだ・さきか)さん(37)は5日に会場を訪れた。タオルで大切に包んだHDD5台を持ち込んだ。

 自宅は地震で倒壊し、津波にも襲われた。10年近くにわたり撮ってきた地元の祭りや風景写真など、貴重なデータが詰まった記憶媒体は2月にやっと回収できた。しかし泥水をかぶり、データは読み取れそうにもない。会場では「私がやってきた仕事の全てが詰まっていて、言葉にならない。小さな集落で久しぶりに復活し、その後は再び中断しているキリコ祭りなど、再現不可能な画像も多く、一部でも回復できれば」と不安そうな表情を見せた。

 機器を開けて見ると、乾いた汚れが中にこびりついていた。それでも、エンジニアの薄井雅信さんは「ある程度は回復できると思うが、全ての作業には数週間の時間がかかるかも」と診断し、東京へ持ち帰ることに。故障内容によって修理方法は異なるが、正常に残っているデータを救うために、プログラムを手作業で書き換えていくこともある。松田さんのHDDはそれぞれの容量が2~6テラバイトと大きく、時間がかかるという。

 松田さんは「もし写真データがよみがえったら、それを使って能登の素晴らしさを発信していきたい」と希望を述べていた。

 他にも、「家屋の倒壊で卓上パソコンが落下、破損した」(石川県七尾市・建設業)▽「建物の延焼による熱でパソコンとHDDの外側が変形した」(同県輪島市・写真館)などとの相談があった。3日間のうちにパソコン2台が復旧し、所有者に返されたが、それ以外は東京へ運んで作業を継続する。

 現地入りした熊谷聖司(くまがいまさし)社長によると、パソコンやスマホなどの普及と機器の高度化に伴い、一般人でも大量の貴重なデータを一気に失う可能性が高まっている。平時ならば、その復旧には機材1台あたり十数万から数百万円かかることもある。データの大量化のタイミングが東日本大震災とも重なったことから、被災地支援の形としての修復の重要性は増しているという。今後も、被災者らとつながりの深い地方銀行などとの連携が実現すれば、「我が社らしい社会奉仕として、被災地でのデータ回復支援を続けていきたい」と語っていた。【森忠彦】

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