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2024.04.04

地震で倒壊の建物から「奇跡」の救出 奥能登の営み描いた巨大壁画

 石川県珠洲市を舞台に開催される奥能登国際芸術祭。その第1回作品の一つで、奥能登の風物や歴史などを描いた巨大壁画「奥能登曼荼羅(まんだら)」が3月、能登半島地震で倒壊した建物の中から救出された。元々は別の蔵の内部に描かれていたものだが、地震直前に分割して保管されていた。蔵も完全に倒壊しただけに、制作に携わった珠洲焼作家の中島大河さん(29)は「作品が残ったのは奇跡。地震のことも描き加え、作品を復活させたい」と誓う。

金沢美術工芸大の学生らが制作

 「奥能登曼荼羅」は同市内の旧家の蔵(縦約9メートル、横約6メートル、高さ約6メートル)内部の板壁3面に描かれた作品で、2017年の第1回作品として金沢美術工芸大の学生や教員らが制作した。日本海を隔てて相対する珠洲と大陸との文化的交流をテーマに、奥能登のキリコ祭りや地域の伝承、自生する花々や飛来する渡り鳥など奥能登の営みが緻密に描かれている。学生らが約1年かけて地元の人たちから話を聞くなど調査を重ねて完成させた。芸術祭後も常設作品として一般公開され、市民や観光客らに親しまれてきた。

 しかし、昨年5月に同市で最大震度6強を観測した地震で蔵が被害を受け、取り壊されることになった。制作に中心的に携わり、珠洲市に移住していた中島さんと百歩陽子(ひゃくぶはるこ)さん(28)らは「珠洲の歴史や風景が語られている作品を何とか残したい」と、昨年12月下旬、作品が描かれていた壁板計201枚を一枚ずつ外し、別の木造2階建て空き家に避難させていた。

 その約1週間後。元日の地震で空き家が倒壊し、1階に保管していた作品もがれきの下敷きになった。空き家は海から近く、すぐそばまで津波が来たものの、幸い作品は浸水を免れたという。

「作品が生きようとしている」

 中島さんらは1月下旬、がれきの隙間(すきま)から壁板約20枚を救出。さらに3月18、19日にボランティアの助けを借りて建物を解体しながら残りの壁板も取り出すことができた。一部にカビなどがあるものの状態は良好で、ほとんどが再利用できそうだという。中島さんは「倒壊や津波はあったが、ぎりぎり被害を免れた。作品がまるで生きようとしているように感じた」と話す。

 今後は、制作に携わった同大OBやOGらが参加して委員会を立ち上げ、金沢美術工芸大の学生らの協力も得て作品を再建する計画だ。再建までの間に、珠洲市外での巡回展示も検討する。

 作品は絵を描いた和紙の上に、別の絵を描いた和紙片を貼り重ねる中島さんら独自の技法で制作されており、後から絵を描き加えることも可能だ。今後、珠洲の現状を調査した上で、地震の影響なども作品に描き加えていくという。曼荼羅は異なる時間の流れを一つの画面で表現する異時同図といい、中島さんは「震災のことも含め、時代とともに変化していく作品にしたい」と力を込めた。【阿部弘賢】

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