ソーシャルアクションラボ

2024.04.24

人のために、社会のために、その先を。シングルマザーが学ぶ 桜美林学園

 学んだことを人のため、社会のために――。「学而事人(がくじじじん)」を信条とする桜美林学園(東京都町田市)は、1921年に中国・北京のスラム街で暮らす女子のために設立された崇貞(すうてい)学園が前身だ。

1930年代、経済的自立を促す教育の一環として刺しゅうをする崇貞学園の生徒たち

 創立者の清水安三(1891~1988年)はその後、女性の権利向上に尽くした教育学者の妻、(旧姓 小泉)郁子と日本に帰国。1946年に崇貞学園の理念を受け継ぐ桜美林学園を開き、現在では幼・中・高・大・院を擁する総合学園に成長した。

桜美林学園のルーツである崇貞学園

 厚生労働省の国民生活基礎調査(2022年)によると、日本の相対的貧困率は15%で、母子世帯の75%が生活について「苦しい」と回答した。このような状況に清水安三の教え子でもある小池一夫前理事長は言う。「安三先生が生きておられたら、心を痛めただろう」

 清水夫妻の思いを受け継ぎ、同学園が昨年始めたのが「100年回帰―SDGs(持続可能な開発目標)教育プログラム―」だ。子育てが経済的に困難なシングルマザーなどに向け、就職に結びつくような実践的な学びの場を提供。同学園の「アルムナイ(卒業生)」企業などと連携し、プログラムの受講生が選考を受けられる特別採用枠を協力企業が用意した。

グラミン日本との調印式。左から百野公裕グラミン日本理事長、小池一夫桜美林学園前理事長

 桜美林大学名誉教授やベネッセコーポレーションなどが提供する授業は、大半がオンデマンドで受講できる。生活困窮者に無担保で少額を融資する「グラミン銀行」の日本版「グラミン日本」や、日本シングルマザー支援協会も運営協力している。4コース(「事務職」「人事・総務・販売管理」「WEBデザイン・マーケティング」「営業・店舗スタッフ」)あり、協力企業が求めるスキルを得やすい。

 受講生からは「収入アップに結びつけたい」「(子どもやお金など)その場のことしか考えられなかったが、子どもが成長した後のことも考えることができた」などと意欲的な声が届いているという。

 小池前理事長は「お子さんと夢を持てるような人生を歩んでほしい。一人一人を大切にする学園でありたい」と話している。

桜美林大学出版会は「小泉郁子 教育論集」(全5巻)の第1巻 「ジェンダーフリー教育」、第2巻「女性解放と教育」、第3巻「女性は動く」を刊行した。(各4180円)

第1巻 崇貞学園と桜美林学園の発展に生涯を捧げた、創立者・清水安三の妻(旧姓 小泉)郁子。1910年代から「新しき女性」像を追求した婦人問題のリーダーとして活動を行った後、教育実践者として安三を支えた。郁子の著書「男女共学論」を中心に、ジェンダーフリー教育を提唱した論説を掲載。

第2巻 「婦人は従来悲しい、あきらめの人として育てられてきた」「近代女性運動はそうした女性の義憤、反逆に外ならない」――。小泉郁子がこう書いて約90年。この状況はどこまで変化したか? 日本における女性の権利獲得運動の先駆者・小泉郁子、その精神の軌跡を伝える。

第3巻 満州事変以降の軍国化の時代に、汎太平洋婦人会議(1934年、ハワイ)への参加、中国視察旅行(1935年)など、各国の女性運動家たちとの交流を通じ、女性の権利を国際的な視野から考察した小泉郁子。その行動と思索をたどる。