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2024.04.24

日本書紀は古代の「カルテ」 京大グループが記述から先天異常を分析

 奈良時代に完成した「日本書紀」に、先天異常を有した可能性がある天皇や当時の人々らに関する記述が計33例あり、5タイプに大別できると京都大学の研究グループが論文にまとめ、発表した。古代史を医学的な視点で研究した例はほとんどなく、京大白眉センター特定助教の東島沙弥佳さんは「書紀は古代のカルテ。今後は中国や朝鮮半島の歴史書も研究対象に加え、古代東アジアの先天異常の実態解明に取り組みたい」としている。

 生まれつき身体的あるいは機能的な異常が見られるのが先天異常で、染色体や遺伝子、環境など原因は複数あるとされる。世界保健機関(WHO)によると、新生児の約6%が何らかの先天異常を有している。

 東島さんと京大医学研究科の山田重人教授は書紀を読み込み、初代天皇とされる神武から第41代持統までの天皇を含む、身体・機能特徴に関する特異な記述を抽出して分析、診断を試みた。古い時代の記述には信ぴょう性が確かでない部分があるという問題はあるものの、身長の異常10例▽過剰な組織または器官形成6例▽言語または行動の異常6例▽通常と異なる顔または体の特徴6例▽色素異常3例――の5タイプに分類した。その他にも、2例があった。

 例えば、第12代景行天皇の息子の日本武尊(やまとたけるのみこと)と、その子の第14代仲哀天皇は身長約3メートルだったと記述されている。景行天皇も高身長だったと「古事記」に記録されており、東島さんらは「数字は誇張されているが、親子孫3代にわたる高身長は遺伝的特性と考えるのが現実的。仲哀天皇は高身長に加えて急死というキーワードから、遺伝性疾患であるマルファン症候群だった可能性もある」とした。

 応神天皇(第15代)は出生時、前腕部に肉の塊があって盛り上がっていた。長命だったため「悪性ではなく、リンパ管奇形が原因の可能性が高い」とした。

 第11代の垂仁天皇の30歳の皇子は「物を言うことができない」「赤ちゃんのように泣いてばかりいる」という表現から、言語障害の可能性が考えられた。白鳥と遊ぶことに執着し、最終的に話せるようになったことを含めて総合的に考え、東島さんらは自閉症の可能性が高いと判断した。

 第21代雄略天皇と第25代武烈天皇はすぐに激怒し、殺人を犯す行動異常が見られ、雄略天皇は記述だけから考えると衝動性の一種である間欠性爆発性障害を患っていた可能性があるとみた。孫の武烈天皇にも遺伝的影響の存在を解読できる一方、その次に即位した継体天皇の正当性強調のため、書紀は武烈天皇を暴君に描いたとする従来の歴史研究にも触れた。

 朝廷に抵抗した地方の人々については、「鼻が垂れている」「とがった顔」「毛むくじゃらの人」などの描写もあった。しかし、東島さんらは「先天異常とは関連していない。人々の手ごわさや軽蔑の感情から生じた」と結論づけた。

 第22代清寧天皇は「生まれつき白髪だった」と書かれ、メラニン色素生合成の低下で引き起こされる白皮症の可能性を指摘した。

 東島さんは奈良女子大で動物考古学を専攻後、理系に転じて京大大学院で人類学・解剖学を学んだ「しっぽの研究者」。「神武天皇がしっぽの生えたヒト2人に会った」という書紀の記述を記憶していたことから、今回の研究はスタートした。約2年半の研究を通じ、2人のしっぽは「何らかの先天異常を表すというよりも、権力の象徴など他の事実の比喩」と考えるようになったという。【早川健人】

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