ソーシャルアクションラボ

2024.05.28

「前例のないことに励み」 住民票の続き柄「夫」記載の同性カップル

 「世帯主」「夫(未届)」と記載された住民票の写しを長崎県大村市から交付された同性カップルの松浦慶太さん(38)と藤山裕太郎さん(39)は28日、同市内で記者会見し、「事実婚関係が認められれば、法的なメリットを享受できる可能性がある。他の自治体でも同様の判断をしてほしい」などと期待を語った。

 2人は2018年から交際を始め、今年3月に兵庫県から大村市に転居。松浦さんが5月2日に市役所で世帯合併を届け出て、市側との協議の結果、住民票の藤山さんの続き柄が「夫(未届)」となった。松浦さんは「こんなことが起こるなんてと驚いた」と振り返り、藤山さんも「前例のないことをしてくれ、励みになった」と声を弾ませた。

 男女の事実婚は、社会保険や国民年金の制度上で法律婚と同等に扱われる。松浦さんは「異性の事実婚カップルが認められている権利は(私たちにも)認めていただくのが平等な扱いだ」とし、「実際はまだまだ難しいと感じているが、(今回の記載で)主張できる根拠ができた」と意義を強調した。

異例の対応に反響

 これまで同性カップルの場合、住民票の続き柄は「縁故者」や「同居人」などと記載されるケースが多かっただけに、大村市の対応には驚きが広がる。

 性的少数者のカップルを自治体が公的に承認する「パートナーシップ宣誓制度」を導入している西日本のある市の担当者は「正直、そんなことしていいのかと驚いた。思い切った判断だ」と話す。この市でも希望があった場合は国の要領に沿って「同居人」という表記にする運用をしており「国の動きを注視していきたい」とした。

 市民団体「自治体にパートナーシップ制度を求める会」の世話人を務めた明治大の鈴木賢教授(中国法、台湾法)は「そもそもパートナーシップ宣誓制度は同性カップルを家族同様に扱うという趣旨で作られた。異性間の事実婚と同様の記載は、制度が始まった当初から想定でき、驚きはない」と指摘。一方で「社会保障などの権利が自動的に全て得られるというわけではなく、(健康保険や年金などの)制度ごとに同性カップルも含まれるかどうかを判断することになるだろう」と語った。

 全国のLGBTQ当事者や支援者でつくる「マリッジ・フォー・オール・ジャパン」(東京)の寺原真希子代表理事は「健康保険の扶養家族や遺族年金といった異性間の事実婚で認められている権利と同等のものが得られる可能性がある」と期待する。その上で「パートナーシップ宣誓制度の導入有無に関わらず自治体の判断でできることで、全国的に広がってほしい。ただし、自治体でできることには限度があり、本来は国が同性間の婚姻を認めるべきだ。国は全国各地に同じ思いを抱えるカップルがいることを改めて考えてほしい」と話した。

病院面会や安否確認で意義

 国勢調査での同性カップルによる続き柄の回答について研究する早稲田大の釜野さおり教授(家族社会学)によると、住民票で同性パートナーを「夫(未届)」「妻(未届)」と記載した例は聞いたことがないという。釜野教授は「同性カップルが公的に可視化され、病院での面会や災害時の安否確認といった緊急時だけでなく、必要に応じて日常的に関係性が証明できるという点で意義が大きい」と指摘する。【松本美緒、田崎春菜、竹林静】

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