2024.06.01
和歌山・豪雨災害から1年 国宝被害、国の方針待ちで復旧難航
2023年6月に線状降水帯による豪雨災害が発生してから、2日で1年となる。和歌山県内では災害関連死を含めて2人が死亡、1人が行方不明となり、床上・床下浸水をはじめとした住宅被害は3149棟に上った。文化財の被害も多くあり、土砂崩れが発生した海南市下津町上の長保寺では復旧までさらに3年ほどかかる見通しで、国宝の価値を守りながらの復旧作業や災害対策が難航している。
長保寺は、紀州徳川家の菩提(ぼだい)寺として知られ、鎌倉時代に建立された本堂(1311年)と、室町時代の多宝塔(57年)、大門(88年)が国宝に指定されている。昨年の豪雨によって裏山が崩れ、根っこからえぐられた大木が本堂に倒れかかった他、境内全体に土砂が流れ込んだ。現在も境内は立ち入り禁止で、拝観を中止している。
裏山は2次災害の発生も考えられる危険な状態だったが、国宝に指定されていることや敷地全体が国指定史跡となっているため、復旧作業には文化庁の方針決定を待つ必要があった。倒木の恐れがある「危険木」約70本の撤去が始まったのは約半年後の11月下旬で、それまでは手つかずの状態だったという。
現在は復旧工事の着手に向けた設計が進められているが、裏山のすぐ上に紀州徳川家四代藩主・頼職(よりもと)の墓があることや土砂の搬出経路がないことから、相当な難工事になると予想されている。裏山の災害対策についても、コンクリートののり面などにすることで国宝や史跡の体裁を保てるかといった協議が続く。
工事費用は7割が国庫補助とされており、予算案が国会で審議されるまで時間がかかるといった事情もあるという。瑞樹正哲(たまきせいてつ)住職は「国宝を守るとは、歴史を守ること。今後さらに新しい発見があるかもしれない遺産を失うわけにはいかず、裏山に関しては再び崩れない対策が必要だが、近代的になってしまえば問題があるためそう簡単には結論が出ない」と語った。
県教委によると、長保寺を含む計13件の文化財で被害が確認され、世界遺産である高野参詣道や熊野参詣道も含まれている。【安西李姫】
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