2024.06.16
4億年前の地層間近に 大地の成り立ち学ぶ屋形船に「黄信号」でCF
生物が陸上に進出し始めたとされる約4億年前の地層を間近で見られる場所が愛媛県西予市にある。海岸にそびえ立つ岸壁に地層があらわになり、太古の息吹を感じられる。屋形船に乗って海から眺めるのが見学手段の一つだが、船の老朽化により今春から休止。運航する地元企業が今秋の復活を目指し、改修費500万円を募るクラウドファンディング(CF)に挑戦中だ。
「四国西予ジオパーク」の一つ
四国西部に位置する同市は、宇和海から四国カルストまで海抜0~1400メートルの変化に富んだ地形で、2013年9月に市全体が「四国西予ジオパーク」に認定された。中でも、宇和海に面する三瓶(みかめ)町の須崎海岸は約4億年前の地層が地表に露出している貴重な場所だ。「四国西予ジオミュージアム」学芸員の榊山匠さん(34)は「縦じまの地層を見ることができ、一般の人にもそのダイナミックさや、できた時代の背景を分かりやすく紹介できる」と語る。
以前は海岸沿いの遊歩道からも見学できたが、20年7月の豪雨による土砂崩れで立ち入り禁止が続いている。そのため、現在は屋形船が唯一の見学手段だ。
屋形船は海が荒れる冬季を除き、同町でホテルも経営する観光会社「あさ屋」が05年から運航。約1時間半の船旅で、須崎海岸や、鏡面と呼ばれるほど穏やかな三瓶湾の景色を食事とともに楽しめる。23年は観光客ら約600人が乗船した。総合学習の一環で地元の小中学校も利用している。榊山さんは「教科書だけではなく、実物を見て大地の成り立ちを知ることは深い学びや郷土への理解につながる」と教育的価値を語る。
災害時は海上輸送の一端も
地域の観光振興や教育面での貢献だけではなく、屋形船は災害対応の一端も担う。
18年7月の西日本豪雨で周辺の国道378号の一部が寸断した際は西予市の依頼を受け、数日間、市民の通勤や通学の手段となった。これを受けて19年6月、あさ屋は同市と「災害時の船舶による輸送等に関する協定」を結んだ。水害や地震で周辺の道路が使えなくなった場合、屋形船が海上輸送の担い手となる。
地域に欠かせない屋形船だが、23年11月ごろ、発電機の油漏れが発生した。安全な運行を継続するには発電機の交換やエンジンのオーバーホールが必要だ。同社代表取締役の朝井秀幸さん(71)によると、改修費は配線の交換や畳の張り替えなども含めて600万円ほど。「大して利益も出ないしやめるか」。朝井さんは、昨秋で運航を終了することも検討したと明かす。だが、地元住民や観光客から存続を求める声が寄せられたこともあり、再開を目指すことにした。24年2月ごろに資金調達について取引のある伊予銀行(松山市)に相談し、CFで募ることを決めた。
CFは運営サイト「キャンプファイヤー」で7月31日まで。5000円から支援できる。金額に応じて屋形船の貸し切り料金とホテル宿泊費が割引される。朝井さんは「ジオパークに認定される前から走らせてきた屋形船。予約や問い合わせも多く、なんとか続けていきたい」と話し、多くの支援を呼びかけている。
地元銀行もCF支援
CFでの資金調達をあさ屋に提案した伊予銀行は、18年から「CFを活用した創業・地域活性化事業」に取り組む。
創業や新商品開発、地域活性化に向けた愛媛県内のプロジェクトが対象。目標金額以上が集まった場合、CF運営会社に支払う成約手数料の2分の1(上限25万円)を補助するなどしている。他行でも事業者らにCFを紹介する例はあるが、補助事業まで実施するのは珍しいという。伊予銀行によると、これまで支援を行ったのは104件。目標金額を達成したのは86件で、達成率は82・7%。
同行地域創生部の高村尚吾さんは、あさ屋のCFについて「三瓶町の魅力発信、屋形船の良さや地域における活用意義を周知することも目標だ」と語る。資金集めだけでなく、多くの人の目に触れて認知度が高まることで、地域活性化にもつなげるのが狙いという。【山中宏之】
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