ソーシャルアクションラボ

2024.07.01

あの黄色いトラックは? 被災地で活躍「コミュニティーフリッジ」

 石川県の能登半島北部の海岸沿い、珠洲(すず)市大谷町に黄色くて目立つキッチンカーが止まっている。車内は無人だ。車の荷室は「コミュニティーフリッジ(公共の冷蔵庫)」になっている。被災地での新たな取り組みを追った。

 車が置かれたのは5月6日。後部の扉を開けると中は冷房や冷蔵庫が完備されていて、1食分ごとの保存食やおやつ、水、紙皿などが保管されている。市内では1月の地震後から断水が続き水が出ない地域もあることから、トイレの凝固剤も置いている。

 扉にはナンバー式の電子錠が付いている。登録した地域住民があらかじめ渡されたカードキーや暗証番号を使って解錠し、必要な分を持ち出せる仕組みだ。

 カメラ付きマイクも設置されている。利用方法が分からない場合は、問い合わせ先に電話してカメラに向かって話せば、24時間いつでも答えてくれる。

 設置したのは、災害ボランティア団体「ピースボート災害支援センター(PBV)」。被災地の支援で活用するのは初めてという。

 センターは4月半ばごろから、現地で不定期に物資の配布会を開いている。PBV現地コーディネーターの寺地高志さん(35)は「近くにあったスーパーが地震で潰れている。来てくれるだけで涙が出ると地元の人に言われた」と振り返る。

 地震から5カ月余りがたってからは毎週水曜、珠洲市大谷町の波の花デイサービスセンター前で定期的に実施している。さらに支援を充実させようと、コミュニティーフリッジを置いて、被災者が配布会の合間でも物資を入手できるようにした。

 この辺りでは5月末ごろに水道が復旧し始めた。だが、水道管の本管から自宅につながる宅内配管が壊れているので水が出ず、自炊が難しい被災者らがいる。寺地さんは、まだ支援が必要だと感じている。

 コミュニティーフリッジの取り組みは、海外で始まった。国内では、一般社団法人「北長瀬エリアマネジメント」による岡山市北区内での先行例が知られている。生活に困難を抱える家庭を支援するため、物資を配布するのではなく、必要な人が保管スペースに取りに行く仕組みだ。

 商業施設内の立体駐車場に隣接した場所に、冷蔵・冷凍庫を備えたコミュニティーフリッジがある。人目につきにくいので気兼ねなく、24時間いつでも食料品や日用品を取りに行ける。登録者が開けられる電子錠を備え、品物もバーコードで管理しているという。

 PBVは1月から、キッチンカーを使って同じような取り組みを佐賀県大町町(おおまちちょう)で始める予定だった。普段はコミュニティーフリッジとして使い、災害発生時には支援活動に使うつもりで準備していたが、そのさなかに今回の地震が起き、当初はキッチンカーで炊き出しや物資の配布などの支援をしていた。

 寺地さんは「支援が届いていない人がいると聞き、こちらに来た。食べ物や水があるという安心感に少しでも貢献したい」と話した。【矢追健介】

関連記事