2024.08.11
見直し進む自治体の災害時ヘリ活用 「能登の教訓、南海トラフに」
災害時のヘリ活用について、自治体で見直しの動きが広がっている。能登半島地震では陸路などが寸断され、ヘリの輸送力や機動力が実証されたためだ。国も自治体に、地域防災計画のなかでヘリの積極利用を盛り込むよう求める。高価なヘリを購入することは容易ではなく、離着陸施設の整備やヘリを所有する民間企業との連携などソフト面がメインとなるが、対応は緒に就いたばかりだ。
能登半島地震で「陸の孤島」救助
総務省消防庁は1月30日付で、防災計画の見直しを求める通達を都道府県に発送。能登半島地震でヘリコプターが情報収集や救助、物資輸送などさまざまな場面で活用されたことを強調したうえで、これまでは他の輸送手段が断たれた場合の「最終手段」の位置づけだったヘリについて、積極的な活用を防災計画で明確にするよう求める。
海に囲まれた能登半島では、地震で道路が寸断され、港湾施設も津波被害や地盤の隆起で使えなくなり、「陸の孤島」といわれた。車両や船舶が足止めされ、存在感を示したのがヘリだ。消防庁によると、地震後3月中旬までに消防機関に救助された435人のうち、ヘリで救助されたのは半数近い199人。自衛隊による救助でもヘリが威力を発揮し、1月8日までに救助した被災者の6割(約310人)に上った。
物資の輸送はどうか。内閣府の担当者は「ヘリでどの程度の物資を輸送したかデータはない」としながら「陸路が閉ざされた被災地では効果的だった」と話す。発災直後に学校の校庭などを発着場として使い、水や食料を被災者に届けた。
離着陸場所、維持費に課題
課題も見えてきた。地震でヘリ運用の調整に当たった奥能登広域圏事務組合の佐藤令危機管理官は、航空自衛官として2011年の東日本大震災でもヘリ運用に当たった。「能登は山が多く離着陸場所に制約があった。多くのヘリを一度に飛ばすのが困難だった」と振り返る。「南海トラフ巨大地震が予想されるなか、能登での経験を伝えていく必要がある」と訴える。
ヘリの必要性は1995年の阪神大震災をきっかけに自治体の間で広まり、全国の消防防災ヘリは94年度の39機から24年3月には77機まで増えた。ただ実際に活用を広げるには費用の問題を含めハードルも高い。
1機当たり20億~30億円ともいわれ、所有しようとすれば維持費もかかる。これまで自治体で消防防災ヘリを購入・維持してきたのは都道府県や政令市のみ。小規模自治体はもちろん、財政規模が比較的大きな自治体にとっても購入は容易ではない。「着陸場所がない山間部が多く、陸路に頼らざるを得ない」(福島県郡山市)といった地域事情を抱える自治体もある。
行政と民間の連携も
現実的な対応策として進められるのが、災害用臨時ヘリポートの選定や、ヘリを所有する民間企業との災害時の連携強化などだ。
沖縄県石垣市は2月、能登半島地震でもヘリを派遣した京都市の企業と連携協定を結んだ。この企業は沖縄で観光客向けの遊覧飛行を展開しており、災害時にヘリを救助や物資輸送に回してもらう。担当者は「行政としてヘリを維持・管理するのは難しいが、協定を結ぶことで緊急時に対応できる」と期待を寄せる。
東京都立大の中林一樹名誉教授(都市防災学)は、陸海空で輸送の役割分担が必要だと強調したうえで「大量輸送のために道路を切り開く作業をする間、ヘリは被災者が今すぐ必要としている物資を届けられる。一方で、ヘリは気象条件に左右される弱点があり、さまざまな輸送ツールを確保することが重要だ。それらがうまく機能するよう関係機関同士の連携も欠かせない」と話す。【中里顕】
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