2024.08.21
農地の復旧いまだ手つかず 抱える二重の問題 山形・豪雨災害1カ月
記録的大雨から1カ月を迎える山形県酒田市で、土砂や流木に覆われた山あいの農地の復旧がいまだ手つかずとなっている。被災農家にとっては元通りにできるかどうかに加え、国の減反制度に伴う転作交付金ルールの厳格化にも直面。二重の問題に頭を抱えている。
「見た瞬間、この世の終わりだと思った」
専業農家、工藤真義さん(42)が耕す20ヘクタールの畑は、およそ4分の1に当たる5ヘクタールが大量の土砂で埋め尽くされ、無残な姿のままになっている。
水田の転作作物としてソバを栽培。7月末に種をまく「秋ソバ」に備えてトラクターで整地した直後に被災した。
元々は主に米を栽培していた工藤さん。生まれ育った中山間地の農地は日当たりが悪く、沢から引いている農業用水も天候に左右され、水量が安定しない。
大小200枚にも上る棚田での稲作は平野部に比べると効率が悪く、現在は全てソバに切り替え、転作交付金を受けながら維持してきた。
ところが2022年に国の転作ルールの厳格化方針が示され、5年に1度、米の作付けをしなければ27年から従来の交付金を得られなくなった。
今から米作りには戻れず、かといって収量が少なく、利益も薄いソバだけでは経営が成り立たない。工藤さんは周囲の農地を集約して畑作に転換すべきか、選択を迫られていた。
そのさなかの豪雨災害。土砂をかぶったままの農地の行く末を思うと「全く先が見えない」。工藤さんは肩を落とす。
農地の復旧には莫大(ばくだい)な費用がかかる。国の補助金が使える「激甚災害」に指定されなければ地元負担も増え、地権者や耕作者が負担に耐えられなくなる恐れもある。
仮に復旧できたとしても、ソバ栽培を維持できるのか。心配ごとは尽きない。
それでも工藤さんは「営農継続は食料生産とともに、人家からクマやイノシシなどの鳥獣を遠ざける緩衝地帯を作る役目も担っている」と強調し、栽培を続けていく考えだ。
中山間地で地域の農地を守り続けている農家が意欲を失い、離農しないような支援をしてほしい。そう切実に願っている。【長南里香】
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