2024.09.04
台風10号で「竜巻」が相次いだ宮崎県、なぜ? 発生しやすい条件は
各地に暴風や大雨の被害をもたらした台風10号が九州南部に上陸して5日で1週間となる。竜巻とみられる突風が相次いで襲った宮崎県の被害も徐々に明らかになり、毎日新聞が自治体などに取材したところ、少なくとも2市4町で突風によるとみられる家屋被害が確認された。台風上陸前の8月28日午後~29日未明の短時間に少なくとも延べ8カ所で突風が発生していた可能性があり、気象庁が詳しい調査を進めている。
「ドーン、バリバリーッ!」。28日深夜、ごう音を伴った突風は、台風に備えて閉めていた雨戸を突き破って窓ガラスを割り、屋根瓦を吹き飛ばした。天井板は落ち、室内は雨で水浸しになった。「台風と川の氾濫には警戒していたが、まさか竜巻とは……」。宮崎市赤江の自宅が損壊した50代の男性は絶句する。
突風は宮崎市の現場から二十数キロ北の西都市でも起きた。住民の男性(83)によると29日未明、停電の中で屋根瓦が飛ばされる音が響き、天井から雨水が流れ込んだ。激しく損壊した自宅の復旧は困難なため解体するといい、男性は「人生で積み重ねたものが全て水浸しだ」と肩を落とす。
宮崎県によると、突風を含む台風10号の負傷者は4日時点で38人に上り、1150棟の住宅が半壊や一部損壊した。特に被害が大きかった宮崎市では4日午後7時現在で50世帯110人が市の仲介先のホテルに一時避難しており、復旧は長期化する見通しだ。
被災地を調査した防災士で、宮崎の気象災害に詳しい宮崎大の竹下伸一准教授(農業水利)によると、屋根が飛ばされた民家のすぐそばには無事だった民家があるなど、竜巻特有の被害が見られたといい、「通過コースによって紙一重で被害が出たところと出なかったところが分かれた」と指摘。「九州の南の海上に台風が停滞したことで竜巻が起きやすい条件がそろい、同時多発的に竜巻が発生した」とみる。
気象庁は突風被害が確認された地域に機動調査班を派遣して調査を進めており、4日までに宮崎市佐土原町▽宮崎市赤江~柏原▽宮崎県西都市▽国富町▽門川町――の5カ所で起きた突風について、竜巻と推定される、またはその可能性が高いと判断した。
このうち、赤江~柏原と西都市が風速約65メートル、佐土原町が同約60メートルと推定。竜巻の強さを表す指標「日本版改良藤田スケール」で、6段階のうちいずれも4番目に強い「JEF2」に該当すると結論づけた。JEF2は国内で観測された竜巻では強い部類に入る。
1991年以降の都道府県別の竜巻発生確認数は、宮崎県は35で、沖縄県52、北海道51、高知県43に次いで全国で4番目に多い。2006年9月には、台風に伴い発生した竜巻で、JR日豊線の特急列車が横転したほか、多数の住宅が損壊する被害が出るなどし、宮崎県延岡市で3人が死亡した。
気象庁は、竜巻などの激しい突風が予想される場合に、「竜巻」を明記した雷注意報を数時間前に発表し、今まさに発生しやすい気象状況になった場合には「竜巻注意情報」を出す。今回の台風でも8月28日午後2時すぎから29日午前7時すぎまでに宮崎県に「竜巻注意情報」は21回出されていた。だが、多くの被災者は台風の風や雨の方に気を取られたと証言する。
宮崎地方気象台の担当者は「竜巻は十分に解明が進んでおらず、いつどこで発生するのか予測するのは技術的に難しく、発生した場合も被害を完全に防ぐのは困難だ」と説明。「台風は、竜巻を含めて複合的に災害リスクが生じるため、早めの備えと避難を心がけてほしい」と話す。【塩月由香、森永亨、山口響】
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