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2025.01.29

国軍から性的暴行、逮捕… ミャンマーで弾圧される性的少数者ら

 軍事クーデターの発生から2月1日で4年となるミャンマーで、国軍と民主派や少数民族勢力との武力衝突が続く。事態の収束は見通せない中、社会的に弱い立場にあるLGBTなど性的少数者が暴力や性的虐待の標的になっている。

 ミャンマーは伝統的に家父長制の社会で、男性優位の価値観が根強い。同性愛は違法で、性的少数者らは差別の対象となってきた。2021年2月のクーデター後は性的少数者が国軍や治安当局に恣意(しい)的に拘束される事案が相次ぎ、支援団体は直後の5カ月間だけで少なくとも77人が逮捕、収監されたとしている。

クーデター4年、弾圧逃れ越境

 弾圧を恐れ、性のあり方に寛容な隣国タイに逃げてきた人たちも多い。10代のころから啓発活動に参加し、治安当局の監視対象だったトランスジェンダー女性のジェズィンさん(32)=仮名=は身の危険を感じ、23年半ばに越境した。

 クーデターの翌月に幼なじみの友人3人と一緒に最大都市ヤンゴンを脱出。当初は北部カチン州で国軍に抵抗する少数民族武装勢力の「カチン独立軍」に合流し、医療チームに加わった。その傍らでミャンマーの独立系メディアの取材に積極的に応じ、人権侵害の状況などを発信し続けた。

 ある日、友人の一人が食堂にいたところを国軍関係者に拘束され、目立っていたジェズィンさんの行方を尋問された。知らないとしらを切ったが、その日の夜に電話をかけてきて「出てきてくれなければ、自分が殺される」と訴えたという。ジェズィンさんは移動もままならない状況で駆けつけられず、その数日後、友人は鶏小屋で後ろ手に縛られて射殺されているのが見つかった。「彼の母親に亡くなったことを伝えるのが一番つらかった」

 他の2人も拘束後に消息を絶ち、一人でタイに逃れることを決心。ミャンマー人のブローカーに1500バーツ(約7000円)を支払い、国境の町で川を渡った。迷惑をかけたくないと家族にも連絡するのをやめた。タイ北部の町で暮らす今、「友達も家族もなくし、何も失うものはない」と抗議活動を続ける。

避難場所や収容施設で性被害

 国連人権理事会が任命したミャンマーの人権問題に関する特別報告者は24年7月に公表した報告書で「クーデター後、国軍による性暴力が広がっている。紛争地域や避難場所、収容施設で女性やLGBTの人たちが犯罪の被害を受けやすい」と指摘。「レイプなどの性暴力は極めて残虐で非人間的だ」と非難した。

 特に国軍への抵抗運動に加わった人に対する弾圧は激しい。性暴力の事例として、収容施設でトランスジェンダーの女性が全裸にされたうえで12時間にわたり拷問されたり、看守がゲイの男性を他の収容者にレイプさせたりしたと報告した。

 一方で、抵抗勢力側でも性的虐待が起きていると指摘。経済的困窮のほか、アルコールや薬物の影響による暴力事案も、家庭内や地域社会で増加傾向にあると警鐘を鳴らした。

 ジェズィンさんらはバンコクで24年6月に開催された性の多様性を祝うパレードに、目から赤い涙を流し、首に血がにじんだようなロープを巻き付けた過激なパフォーマンスで参加した。周囲が笑顔でイベントを楽しむ中、「LGBTIQはミャンマーの刑務所にいる」と書いたプラカードを持つ集団は目立った。

 ミャンマーでは18年に初めて公的に同様のイベントが許可され、社会に変化の兆しが見えていたが、クーデターで逆行した。ジェズィンさんは「これまでの犠牲を思えば、ここで諦めてはいけない」と力を込める。ただ表情には疲労感もにじみ「一人で部屋にいると無力感で動けなくなる時がある」。国境周辺の治安悪化を警戒するタイ当局の監視もあるという。

 ミャンマーに帰れる日がくるのか分からないまま、避難生活は5年目に入る。【バンコク武内彩】

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