ソーシャルアクションラボ

2024.07.01

熱海土石流3年 ばらばらになった地区に「人つなぐ」まんじゅう店

 28人が亡くなった静岡県熱海市の土石流災害は3日、発生から3年を迎える。被災した伊豆山(いずさん)地区はすでに転居した人も多いが、ここに先月、まんじゅう店「ANNDOT(アンドット)」がオープンした。店主は被災者を支援するNPO法人の代表、高橋一美さん(47)。伊豆山で生まれ育ち、被災者でもある。ばらばらになった地区を憂え、「人が集い、つながる場を作りたい」と思いを語る。

 3年前の7月3日、伊豆山地区の逢初(あいぞめ)川を土石流が一気に下った。その河口域の逢初橋近くで、高橋さんは仕出しの弁当店を営んでいた。家族や従業員は無事だったものの、店内は土砂が流れ込み、神奈川県湯河原町への一時避難を余儀なくされた。

 落胆する一方で、顔見知りの人たちのことが気にかかった。地区を訪ね歩くと、高齢者たちは電気やガス、水道が使えない状況をのみ込めないまま、自宅で孤立していた。一軒ずつ状況を把握し、水や食料の配送をする活動を始めた。

 市民やボランティアの支援の輪からNPO法人「テンカラセン」が生まれ、高橋さんはその代表になった。活動の中で気づいたのは、「人と人がつながれる場」がなくなっていること。被災から1年となるのを前に、地区にカフェ「あいぞめ珈琲店」を開業した。テンカラセンが運営母体となり、資金はクラウドファンディングで集めた。

 「食べ物の持ち込みOK。何も注文しなくてもいい」。眼下に海が広がる眺望が自慢のカフェは、地元の人たちばかりでなく、観光客も交わる場になった。伊豆山ガンバレ!――。壁には、メッセージが書かれた木製コースターが張られている。

 「背伸びはしない。少しでも観光で伊豆山を訪ねる人が増えれば」。高橋さんは「にぎわい」を取り戻したいと願う。そして先月1日、カフェから道路を挟んだすぐ近くに、アンドットをオープンした。

 元々、熱海駅前など市中心部に出店しようと考えていたが、被災をきっかけに「やっぱり伊豆山でないと、私がやる意味がない」との思いが募った。店舗は築100年を超える古民家を半年かけて改装した。

 店の名前には「あんこがどっと入っている」「客がどっと入る」との思いを込めた。温泉地の熱海らしい焼き印の入ったまんじゅうや、スマートフォン内の写真を食紅で転写する「イラストまんじゅう」を提供。今は店舗の半分をフリースペースとしているが、8月には交流スペースを整えていく。「まんじゅうを買わなくていい。ふらっと立ち寄ってもらえるだけでいい」というのは、カフェと同じだ。

 「親しくしてきた近所の人たちがいないと、地区の魅力がないというのが本音なんでしょう。寂しいが、無理に戻らなくてもいい。ただ、いつでも戻ってこられる場所は守りたい」

 被災した弁当店も、かつての「にぎわい」を取り戻しつつある。

転居半数超え、63人なお仮住まい

 伊豆山地区を巡っては昨年9月、警戒区域が解除され、住民らの立ち入りが可能になった。ただし、避難した132世帯227人の住民のうち、戻ってきたのは22世帯47人。転居は78世帯117人と半数を超え、32世帯63人が仮住まいを余儀なくされている。

 熱海市などは土砂が流れた逢初川を拡幅し、両岸に市道を新設する復興計画を進め、6月末現在、拡幅で約60%、市道で75%の用地を取得した。用地買収は当初予定の2年間から延長し、26年度中の整備完了を目指している。【若井耕司】

関連記事