ソーシャルアクションラボ

2024.07.29

災害に強い地域の構築へ 教訓基に官民連携で備え「命守る避難指示を」第19回水害サミット

各自治体の取り組みについての事例発表を聞く参加者ら

 水害を経験した全国の地方自治体のトップが対策などについて意見交換する「第19回水害サミット」(同実行委員会、毎日新聞社主催)が6月11日、東京都千代田区のパレスサイドビルで開かれた。

 第1部は「公共と民間の共創で取り組む流域治水」、第2部は「水災害リスクを自分事として捉え、主体的な避難行動を促す情報発信」をテーマに14道府県22自治体の首長と斉藤鉄夫国土交通相・水循環政策担当相が参加、事例発表や熱心な質疑が交わされた。【コーディネーターは元村有希子・毎日新聞客員編集委員、構成・猪狩淳一、山内真弓】

開会あいさつ

 

 椋野・日田市長 水害サミットは、水害を経験した市町村長がその経験や教訓を基に意見交換を行い、全国に水害への備えの重要性についての理解を深めるとともに、水害に強い社会の構築に向けた新たな政策提言を行っていくことを目的としている。

 近年では気候変動の影響により、線状降水帯がもたらす過去に経験したことのない豪雨が発生するようになった。頻発激甚化する水害や土砂災害に対し、市町村長は被害が最小限となるよう努めなくてはならず、防災・減災対策は急務となっている。議論を深め、地域の防災・減災や住民の主体的な避難行動につなげていきたい。

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■第1部・公共と民間の共創で取り組む流域治水

企業から避難場所提供 事例・宮城県角田市

 黒須市長 1986年の台風10号では、総雨量303ミリの雨量で、阿武隈川をはじめ中小の河川の氾濫や土砂崩れで大きな被害が出た。また、5年前の台風19号(東日本台風)では、東日本に記録的な豪雨があり、角田市でも404ミリを超える雨で被害総額は約73億円に達した。

 「公共と民間の共創で取り組む流域治水」として、まず「アイリスオーヤマ」と2016年に協定を結び、高台に立地している同社の敷地内にある福利厚生施設を緊急避難場所に指定して、地元住民の避難場所として提供してもらっている。東日本台風時には100人を超える住民が避難した。

 第二に防災機器メーカーの「ホーチキ」とも今年6月に協定を締結。同社では大規模水害に備えた事前防災として、高さ2~4メートルの防水壁を設置しており、駐車場を周辺住民の緊急避難場所として指定した。

 市としては、東日本台風の浸水被害発生要因を検証して、防災・減災構想を21年5月に策定。止水壁による避難路の確保や、堤防が決壊した場合に氾濫の拡大を防ぐ二線堤としての道路のかさ上げ、農業用ため池のしゅんせつによる貯留機能の確保などハード面の対策を進めている。ソフト面では、災害時の情報などを知らせる安全・安心メールや、防災マップの冊子版改訂やウェブ版を作成。避難に備えた行動をあらかじめ決めておくマイ・タイムラインづくりや、主要道路や小中学校周辺の電柱200カ所に阿武隈川氾濫時に想定される浸水の深さなどを示す看板の設置などで日ごろの対策を呼びかけている。

ドローンで物資輸送 事例・長野県伊那市

ドローンの自動飛行実験を見守る関係者=伊那市の天竜川と三峰川合流点で2018年12月18日、宮坂一則撮影

 白鳥市長 20年7月の豪雨で天竜川の支流の三峰川の堤防が欠損、国土交通省と地元事業者に三日三晩徹夜で対応してもらった。翌年には復旧堤防も完成した。

 東京23区よりも広い中山間地域である伊那市では、買い物弱者である高齢者のためのドローンを使った買い物のプラットフォームを提供している。市街地にあるスーパーに注文すると、ドローンで拠点まで運んでくれるというもので、国交省と連携協定を結んで、ドローンを河川管理に活用している。

 二つ目が、VTOL(無人垂直離着陸機)の開発。最大速度140キロ、航続距離100キロで標高は3100メートルまで約200キロの荷物を持っていける。

 現在、南アルプスや中央アルプスの山小屋では、発電機や燃料、食料といった物資をヘリコプターで運んでいるが、パイロット不足や物価高による経費増加などで手配が難しい。そのためVTOLを活用しようと、今秋にも山小屋に荷物を運ぶテストをする予定だ。

 無人の新しい空のモビリティーなので、航空機として取り扱うとなると運用が非常に難しくなるので、今回国家戦略特区会議でも制度整備の推進をお願いした。

 VTOLが完成していれば、能登半島地震でも活躍できたと思う。

 また、高齢者や体の不自由な人など、市役所まで行くことが難しい人にバスで市役所の一部のサービスを提供するモバイル市役所も運行しており、災害時の支援物資の輸送や情報連絡拠点として活用したい。

農業用ため池を活用 事例・奈良県田原本町

 高江町長 田原本町では、内水被害対策としての雨水貯留施設の整備を進めており、公の事業として、社会福祉協議会駐車場などの地下に雨水を貯留できる施設を整備した。だが、非常に費用がかかり、適地に官有地があるとは限らないため、公共と民間の共創で取り組む流域治水ということで、農地所有者の協力を得て水田貯留と、水利組合の協力を得て農業用のため池に治水機能を持たせる整備を推進している。

 ため池は、面積が大きく貯留効果が高く、河川水が流れ込みやすい場所にあるため、利水、治水の二つが共存できるよう池床にポンプを設けて、かんがいに必要な水を確保し、残りを治水利用する整備を実施した。行政としては、既存のため池の活用によって、新たな土地の取得が不要で、安価で短期間に整備が実施できた。農家サイドでは、日常管理や維持修繕工事が行き届かず、修繕の費用負担の増大などが課題になっていたため、その負担を軽減できた。

 また、土地所有者の協力を得て、将来にわたって貯留機能を維持していくために、特定都市河川浸水被害対策法第53条に基づく貯留機能保全区域の推進に取り組んでいる。河川沿いの低地や窪地の農地の治水機能を将来にわたって可能な限り保全する必要がある地域として、土地所有者の同意を求めているが、固定資産税の減免に加えて更なるインセンティブが必要だ。官民共創にはウィンウィンの関係をいかに築くかが重要だ。

◆意見交換    
―― 住民の意識を醸成

 川田・八幡市長 京都と大阪の真ん中に位置しており、木津川と桂川と宇治川の1級河川が合流して淀川になり大阪に流れていく地点で、水害との闘いの歴史だった。流域の堤防の整備や上流域のダム整備などで安全は増しているが、もし堤防が決壊したときは浸水想定が最大6メートルのため、市としては地下貯留施設や水害等避難行動タイムラインの策定などに取り組んでいる。官民共創としては京都京阪バスと一緒に、危険区域の住民をバスで避難所に送る取り組みをしている。

 佐藤・中山町長 最上川という本流と支流の須川に挟まれ、雨が降って最上川が危険水位に達すると、支流の流れがせき止められたり、逆流したりするバックウオーター対策で水門が閉められるので内水被害が発生する状況だ。3月に支川である石子沢川などが特定都市河川に指定され、協議会も発足して、政策をやっていこうと思っている中で、民間との共創が必要になる。店舗や企業誘致でも雨水貯留浸透施設を設けるなど条件を出さざるを得ず、費用もかかることから、補助していくにも町の負担は財政上非常に厳しいので、国の支援も必要になってくる。田原本町では貯留施設への支援や農地の保全区域指定の補償はどうしているのか。

 高江・田原本町長 大規模施設の貯留施設については町独自の支援はない。保全区域の住民のインセンティブは固定資産税が3年間減免されるものだが、農家の置かれている状況を踏まえたら、もう少しインセンティブが欲しい。

 伊東・倉敷市長 18年の豪雨災害から丸6年になり、5カ年の復興計画に取り組み、3月に小田川合流点付け替え工事が完成した。5月には24時間で約125ミリの雨が降ったが、安全に流れて住民にも安心してもらえた。

 また、市内の用水路を使った水の貯留に取り組んでいる。100年前に高梁川を1本に付け替えたときに、水利を整理して取水口を倉敷市長が管理者となる東西用水組合が持つことになったので、そこを止めることが、農業者の理解を得ればできる状況だった。1500キロメートルある平地部の用水路には約300万トンをためられる。また、1ヘクタール以上の開発行為では貯留施設について定められているが、それに加えて2000平方メートル以上の開発には、1000平方メートルごとに25トンの貯留施設を条例で設け、補助を出している。施行後1年半で34件、約4200トンの水をためられるようになっている。

 保科・丸森町長 東日本台風では24時間で590ミリの雨が降り、史上最悪の473億円の被害が出た。災害検証委員会を設置して、さまざまな課題を集めた。阿武隈川が決壊した場合、隣の角田市は同じようなリスクを持つので、避難ができず、阿武隈山地を挟んだ山元町へ避難をすべきだと結論が出た。今回の水害では多くの自動車が浸水してしまったので、約2000人が車で避難できるように民間の工場地を避難場所として借りる協定を結んだ。そこで避難訓練を実施し、その地域と住民同士が交流を持つことになった。隣町とこうした協定が結べたことに感謝して、今後の活動に生かしていきたい。

 三木・須坂市長 能登半島地震で仮設住宅として使われているトレーラーハウスの企業と連携協定を結んでおり、トレーラーハウスの出動要請を考えている。トレーラーハウスのメリットは、住宅として活用していても、移動すれば他の場所でも活用できる。また、長野市など流域の5市町が連携したまちづくりをする中で、川の大切さや恐ろしさ、5市町の連携の重要性を住民に知ってもらうことも大事だと感じている。

 高橋・南富良野町長 16年8月に北海道に三つの台風が上陸し、四つ目が直撃して空知川の堤防が決壊し、1万5200戸、130ヘクタールの農地が浸水した。災害時の応急復旧を行う水防センターと、平時には地域のにぎわい創出に使用する機能を併せ持ったMIZBE(水辺)ステーションを国と連携して整備し、河川空間を生かした「川まちづくり」ということで、復旧と復興を同時並行で進めていく中で、住民の防災意識の醸成と防災教育の充実に努めていきたい。

 細川・幌加内町長 雨竜川の最上流に位置し、日本一のそばの生産地でもある。治水対策としては、1943年に設置された現在北海道電力が所有している二つの発電用ダムを再生する雨竜川の再生事業が、昨年から着工した。ダムにはサクラマスや幻の魚と言われるイトウが生息しており、こういった資源をうまく活用していこうと、ワークショップを開催するなどしている。下流にはタンチョウヅルも生息しているので、それを守り、PRしながら、治水と資源が共生したまちづくりをやっていこうとしている。

■第2部 水災害リスクを自分事として捉え、主体的な避難行動を促す情報発信

情報の発信方法多様化 事例・茨城県常総市

水害で出た廃棄物が高く積まれた仮置き場=茨城県常総市で2015年9月、本社ヘリから竹内紀臣撮影

 神達市長 2015年9月に線状降水帯による大雨があり、鬼怒川堤防が決壊して市内の3分の1が浸水。災害関連死も含め15人が亡くなり、住宅被害は約8000戸に及んだ。市役所も水没し、逃げ遅れた住民はヘリコプターなどで救出された。

 ピーク時の避難者は6000人以上で、市の右半分がほぼ水につかった。市の真ん中を流れる鬼怒川があふれ、市の東側の住民が西側に渡るためには大橋を渡る必要があったが、大渋滞となり、隣接自治体に避難する人が多かった。19年の豪雨でも鬼怒川の水位が高くなったが、国交省の緊急プロジェクトで堤防のかさ上げと鬼怒川の掘削が行われたため、溢水を防げた。

 水害後、災害情報の発信方法を多様化し、避難所の開設や混雑状況が一目でわかるアプリを導入。主要道などの電柱に、洪水時に想定される浸水の深さの最大値を看板などで示した。小中学校では災害時の行動を整理したマイ・タイムラインを作ったり、保育園と中学校の合同避難訓練を実施したりしている。子どもがマイ・タイムラインを家に持ち帰り、命を守る避難行動について家族で共有することにつなげたい。

水害の教訓に基づく行動 事例・新潟県村上市

土砂に飲み込まれた田んぼ=新潟県村上市で2022年8月、西夏生撮影

 高橋市長 22年8月に線状降水帯が発生し、市内全域で豪雨による被災が確認された。1級河川・荒川沿いの市街地や集落で、土石流や浸水による被害が発生した。一人一人の防災意識の高さと、過去の水害からの教訓に基づく避難行動により、人命を失うことはなかった。

 災害後、荒川水系緊急治水対策プロジェクトが始まった。計画規模以上の降雨により河川が氾濫した場合、住居などの被害を防ぐため、2番目の堤防となる二線堤と住居を囲んで守る輪中堤を整備し、周辺を守っていく。

 23年に、避難行動に関するアンケート調査を実施したところ、自宅が安全だと思ったという市民が多く、避難しようとしたときは避難できる状況ではなかったことも浮き彫りになり、避難のタイミングをどれだけ早くできるかが課題だ。

 市では、自主防災組織や防災士の育成を進め、学校での防災教育も充実しており、災害時に、子どもが家族に避難を呼びかける行動につながった。また、(荒川沿いの)小岩内集落では、豪雨で土石流に襲われたものの、人命を失うことはなかった。

 1967年の羽越水害で被災した経験に基づく適切な避難行動を「小岩内の奇跡」として、地元の専門学校の学生が絵本にする取り組みも進んでいる。

SNS情報をAIで分析 事例・静岡県磐田市

 草地市長 22年9月と23年6月の台風で、浸水被害が発生した。豪雨で敷地川の堤防が決壊し、土砂崩れや河川の氾濫などが起きた。市内には低地が多い。避難指示などをいつ、どのように出すかは、悩みながらだ。

 22年の台風では急激に雨が降り、河川の水位が上昇。夜に高齢者等避難(土砂災害)を発令した。雨が続く予測をしていなかったが、河川が氾濫危険水位に達し、後に避難指示(浸水)を出した。洪水の浸水域にある土砂災害の避難場所では、河川の氾濫後、違う避難場所に移動してもらうことになってしまった。車が水没した方もいた。

 23年6月の台風では、土のうによる仮復旧状態の堤防が決壊した。前年の反省を踏まえ、雨がひどくなる前に避難場所を開設し、高台にある市有地に、車の緊急避難場所を設けた。

 2度の被害を受け、警察などと意見交換会を開き、顔の見える関係を作った。SNSの情報をAIで集め、分析するシステムも導入した。川が破堤したところにカメラを複数設置し、逃げるタイミングを住民と共有している。

 「避難場所となった学校体育館が浸水した」という報告も受けた。防水対策として、体育館は2階建てにする。(国の)補助があると助かる。また、市管理・県管理・国直轄河川のカメラや水位計のシステムが連動できればいいと思う。

◆意見交換

 染谷・島田市長 「避難指示をいつ出すのか。市民にどう理解してもらうのか」という話があったが、行政側だけで判断するのは難しい。市では「災害情報共有システム」を導入し、全庁で被害や対応状況などの情報の共有化を図ることとした。河川には水位計を設置し広く公開することで、水位上昇の状況や氾濫の危険性を可視化した。「ここまで水位が来たら、避難する」ということを住民にも知ってもらう。また、地区の地域性に合わせた「わたしの避難計画」を作成し、マイ・タイムラインとともに目に付く冷蔵庫などに貼ってもらうことで、防災意識を高めたい。

 避難所の立地場所によっては、水害時に使えないところもたくさんある。地震災害と水害では逃げる場所が違う場合もあることなど、逃げ方についても学びを共有しなければならない。

 松岡・人吉市長 20年7月の豪雨で住民の5分の1以上が何らかの被害に遭った。当時、私もマイクを握り、防災行政無線を通じて避難の誘導をした。

 球磨川に架かる橋にライトを設置し、水位の上昇に合わせて色を変え、氾濫危険度を知らせる「ライティング防災アラートシステム」を構築した。視覚的に伝え、早めの避難行動を促す取り組みを進めている。

 武井・飯塚市長 市の南北に市街地を通る形で1級河川・遠賀川が流れている。03年7月の豪雨災害で約4000戸の浸水被害が出た。その後、国交省の河川改修支援があり、さらに厳しい豪雨があったが、大きな被害には至らなかった。

 小中学校で町を歩いてハザードマップを作った後、地域の大人の前で発表するなどの防災教育に取り組み、子どもと大人の接点が生まれる機会としたい。

 稲田・見附市長 20年前の04年、隣接する三条市など含め「新潟・福島豪雨」で大変な被害を受けた。今年、「水害20年プロジェクト」として関係自治体や北陸地方整備局信濃川下流河川事務所などと、シンポジウムなどを実施する。節目を機に改めて水害を「自分事」に捉えてもらいたい。

 昨年、職員が一つの操作でメール、SNS、(電話の)自動音声を発信できる仕組みを導入した。英・中・韓・ベトナム語でも情報発信している。

 滝沢・三条市長 04年7月に市の東西を流れる五十嵐川などが決壊して9人が亡くなった。それを契機に水害サミットの発起人に加わった。

 少子化に伴い、小中学校統廃合の議論も避けて通れないが、学校の体育館を避難所として使うことが多く、廃校となった学校の体育館の在り方について、アドバイスをいただきたい。

 染谷・島田市長 学校の統廃合を進め、校舎を民間企業が使うことになっても、地元からは「避難所として維持してほしい」と要望があった。新たに避難所を作るのは財政的にも難しい。住民は「学校だった建物が避難所だ」と思って逃げてくる。その点を受け入れてくれる企業でないと、(空き校舎を)使ってもらえないのが現状だ。

 池田・防府市長 防災士の資格取得費用を市が負担し、500人以上養成した。268人の防災士が加入する連絡協議会が設立されており、昨年の大雨で避難指示を出した際、連絡協議会のおかげでスムーズだった。今年は「こども防災士」を養成する予定だ。また、防災ラジオを75歳以上の人がいる世帯に無償で配付しており、更に今年から、土砂災害・津波の警戒区域にある世帯に無償貸与する。

 篠田・美祢市長 日本最大級のカルスト台地である秋吉台があり、市内全域が日本ジオパークに認定されているため、ジオパーク教育に防災教育を併せて実施している。地形・地質を知ることは大切だ。

 昨年大水害があった。県管理の厚狭川の水位は1時間で3メートル上昇して氾濫した。そのときに国交省に来てもらって、心強かった。

 避難の時間帯も加味して避難指示のタイミングを示すマニュアルができれば非常にありがたい。避難所開設についても、客観的な事実から判断することが大事だろう。

 三木・須坂市長 私がいなくても、必要に応じて職員が私の名前で避難指示を出している。避難指示は昼間に出すと、市民が安心すると思う。一人暮らしの住民など、早く避難したいと思っている人もいる。なるべく早く出した方がいい。

 地域で、災害時に住民が取るべき対応方針を示した「コミュニティタイムライン」の作成に取り組んだ。災害対応だけではなく、自分たちで公園をつくるなどコミュニティーを守ることにもつなげている。

 国土交通省水管理・国土保全局・広瀬昌由局長 水害サミットが始まる前年の04年は、新潟・福島豪雨があり、台風が日本列島に10個上陸し、中越地震も起きた。日本が災害リスクを背負っているということを痛感した年だった。

 公の情報の出し方も変わった。気象庁では線状降水帯の発生情報を出すようになり、水防法に基づく水位周知河川は、浸水想定などの情報提供をしている。ややこしいと言われてきた避難勧告と避難指示を、「避難指示」に一本化するなど情報を組み合わせ、住民の命を守っていきたい。

 一方で、水災害リスクを「自分事」化し、流域治水に取り組む主体を増やすために、防災教育等への取り組みを行っていくことが重要だ。流域の特徴を生かした流域治水の取り組みを加速化し、深めたい。自治体同士でも競いながら、高めてほしい。

培った知見や技術力、生かす
斉藤鉄夫国交相・水循環政策担当相

斉藤鉄夫国交相・水循環政策担当相

 近年、気候変動の影響により水害が激甚化・頻発化しており、昨年も6月の台風第2号や7月に発生した大雨などによって、全国各地で甚大な水害が発生した。

 このような状況に対応するため、流域の上流から下流まで、あらゆる関係者が協働して治水対策を行う「流域治水」の取り組みを強力に推進することが重要になる。

 一つ目のテーマとして「公共と民間の共創で取り組む流域治水」について、二つ目のテーマとして「水災害リスクを自分事として捉え、主体的な避難行動を促す情報発信」について議論されるが、現場の最前線で流域治水に取り組んでいる市町村長の経験と知恵が全国に発信されることは、大変有意義なもので、今後の国土交通行政にしっかりと反映していきたい。

 国土交通省としては、これまで培ってきたインフラ整備や管理に関する知見や地方整備局の現場力、技術力を生かし、流域治水や事前防災対策の着実な実行と、さらなる充実を図るとともに、引き続き、市町村長の皆様をあらゆる場面でサポートしていきたい。

苦境越える、さまざまな工夫 
元村有希子・毎日新聞客員編集委員

 水害サミットの原点は2004年。観測史上最多、10個もの台風が上陸し、各地が水害に見舞われた。被災自治体の首長らが、反省と教訓を次に生かすため提唱した。当初は国への陳情合戦の色合いも濃かったと聞く。回を重ねるにつれ、首長同士の情報共有と学びの場に発展した。

 この間、高齢化と過疎化も進んだ。現役世代が年を重ねて「災害弱者」になっていく。地域防災を担うべき世代は都会へ出て行き、税収減が財政の足腰を弱める。それが新しい挑戦にブレーキをかけ、防災力が低下する悪循環に陥りかねない。

 こうした苦境をさまざまな工夫で乗り越えようとする多くの取り組みが紹介された。流域を同じくする複数の市町村が連携する動きも盛んだ。政府の「流域治水」が後押ししている。

 民間活力の導入も目立つ。長野県伊那市のドローン活用は、平時には「買い物支援」、災害時には河川の監視や孤立集落への物資輸送に貢献する。平時、有事と線引きせず地域の課題を解決する姿勢は心強い。知恵を集め行動に移す事例が、この場から育てばうれしい。

実行委員会代表あいさつ

 白岩・南陽市長 南陽市では、5月に林野火災が発生し、137ヘクタールが焼失した。火は人家にまでは至らなかったものの148世帯410人に避難指示を出した。これまでの水害サミットで、命を守ることを最優先として、避難指示をためらってはならないということを学び、今回人的被害を防ぐことにつながったと感じた。

 今回二つのテーマについて、首長たちに、失敗・成功を含めて、赤裸々に話してもらえた。この議論が、今後の流域治水の展望や、水災害リスクを「自分事」として捉え、主体的な避難行動へつながるものと期待している。

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自治体参加者

高橋秀樹・北海道南富良野町長

細川雅弘・北海道幌加内町長

黒須貫・宮城県角田市長

保科郷雄・宮城県丸森町長

白岩孝夫・山形県南陽市長

佐藤俊晴・山形県中山町長

神達岳志・茨城県常総市長

高橋邦芳・新潟県村上市長

稲田亮・新潟県見附市長

滝沢亮・新潟県三条市長

三木正夫・長野県須坂市長

白鳥孝・長野県伊那市長

染谷絹代・静岡県島田市長

草地博昭・静岡県磐田市長

川田翔子・京都府八幡市長

高江啓史・奈良県田原本町長

伊東香織・岡山県倉敷市長

池田豊・山口県防府市長

篠田洋司・山口県美祢市長

武井政一・福岡県飯塚市長

椋野美智子・大分県日田市長

松岡隼人・熊本県人吉市長

自治体以外の参加者

国土交通省=斉藤鉄夫国交相・水循環政策担当相

広瀬昌由水管理・国土保全局長(肩書はサミット当日)

毎日新聞社=元村有希子客員編集委員

 

※水害サミットは、公益財団法人河川財団の河川基金の助成を受けて開催された。